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※もしも番さんポジが年下女刑事だったら。
※最終話のネタバレ注意!




―――私は、貴方を社会復帰させてみせます。


「必ずです。絶対に、更生して頂きます」
「…しつけェな」
「ええ、そうでしょうとも。ですが、私は何度だって言いますよ」


自分より何歳か年下の、その女刑事は、明るく宣言する。そう、彼女はいつだって。


「貴方を必ず、鉄格子の外に出してみせます。私、こう見えて有言実行なんですよ!」
「ああ、そうかい」
「むっ。信じてませんね?」


彼女はむくれたような顔になる。…本当に、表情がくるくるとよく変わることだ。


「それでも言い続けます。貴方が信じてくれなくてもいいんです」
「おいおい…当の本人ないがしろにしてどうすんだい」
「ないがしろになんかしていませんよ。ただ、貴方が信じなくても、私が口にし続けることで真実になるんです」
「どういう理屈だ、それ」
「よく言うじゃありませんか。『嘘も吐き続ければ真になる』って」
「…結局、嘘なんじゃねェか」
「もう、そんな揚げ足ばっかりとってると―――」


彼女は懐から小さなスイッチをのぞかせる。それを見て、反射的に体がびくりと跳ねた。


「ビリビリっとしちゃいますよ」
「…そりゃ反則だろ」


ため息をつく彼に、彼女はスイッチをしまいながら笑う。


「でも、ビリビリしてる時のユガミさん、素敵ですよ」

「は?」
「すごく、胸にぐっとくるものがあります」
「……前から思ってたんだがお前さん、変態だよな」
「いいえ、これが私の正義です!」


世間では、それを変態というのではないか。そう思ったが、口に出すと面倒なのでやめておいた。代わりに適当に流すと、また「話を聞いていない」と頬を膨らませた。興に乗ったので、両手で頬の空気を抜いてやった。手錠により自由を奪われてはいるが、華奢な体躯の女性の顔を挟めないほどではない。


「ひゃにひゅるんえふか(何するんですか)」
「はは、何言ってるか分かんねェな」


自分でやった癖に予想以上の変な具合の顔になり、思わず吹き出す。吹き出して―――はっとした。


「…ユガミさんが、笑った」


見れば彼女も同じことで驚いたらしく、ぽかんとした顔でこちらを見上げている。その表情が、徐々にほころんでいく。…嫌な予感がした。


「ゆっ…ユガミさん!かわいい!かわいいです!」


案の定、目をキラキラさせて感激しだした。こうなると、更に扱いが面倒になる。大の男に向かって「かわいい」なんて褒め言葉でもなんでもない。そんなことを反論すれば、「殿方でもかわいい人はかわいいんです!かわいいは正義!」などと言い出しかねない。ちょうどその時、係官が開廷時間が迫ったことを伝えに来たので、さっさと逃げることにした。待って下さい!と慌ててついてくる彼女は、本日最初の証人だ。


「…今日は容赦しねぇからな」
「どんと来いです!思い切りいじめちゃって下さい!」
「……やっぱり変態だ」


そんな下らないやり取りをしながら、法廷に向かう。―――そういえば、笑ったのなんていつぶりだろう。隣をぴょこぴょこ付いてくる、己の肩に届くか届かないかくらいの頭を、見下ろす。


「…嬢ちゃん、」
「『嬢ちゃん』じゃないです!私には、『なまえ』というれっきとした名前があります!」
「何で下の名前なんだ?」
「それはもちろん、ユガミさんに呼んでもらいたいサインです」


彼女の中では当然のことらしかった。もう、何も言うまい。


「じゃあ、試しに呼んでみて下さい。『なまえ』、ですよ」
「しょうがねぇなぁ、嬢ちゃん」
「だから、『嬢ちゃん』じゃ…!」


期待通りの反応をする彼女に、のどの奥で笑う。法廷は、もう目の前だ。


「むぅ…こうなったら、呼んでくれるまで言い続けますからね!」


口に出し続ければ、真実になるんですよ!証人控え室に向かいながら、まだそんなことを言っている。対して彼は法廷への扉に向かいつつ、返した。


「シャバに出れたら、呼ぶかもなァ」
「本当ですね?約束ですよ!」


扉をくぐる前にちらりと見れば、係官に困り顔で話しかけられているところだった。


「…ずいぶん、ぶっ飛んだ奴と組んじまったもんだなァ…」


独り言ちる彼の顔は、言葉の気怠さとは裏腹に、楽しげだった。



* * * * *



銃声が、響く。その場の空気を引き裂くように。そうして彼女は―――ゆっくりと、倒れた。一瞬静まり返った法廷内が、爆発するように騒がしくなった。皆、突然の銃声に怯え戸惑い、逃げようとする者もいる。そんな喧噪の中、彼は無言で、しかし無駄なく動いた。証言台のところで、血の海の上に倒れている―――彼女。抱き起すと、呼吸は乱れているものの意識はあった。蝋細工のように真っ白な顔が、彼を見上げて―――笑った。


「あは、は……やっぱり、こう、なるのか…」
「…喋るな」


短く言って、傷口を見る。腹部に空いた穴から、どろどろと止めどなく赤い液体が流れ出ている。一刻も早く適切な処置をしなければならない。救急車は、たった今赤い弁護人が携帯電話で呼んでいた。それまで、もつかどうか―――


「正体が、バレ、たスパイは…用済み、ですから、ね…」


彼女は、乾いた笑い声を立てる。


「…もう…かっこ、わるい…なあ。どうせ、なら…一発で、仕留めて、くれれば…良かっ、たのに」
「喋るんじゃねェ!」



彼の怒号にも、彼女はへらりと笑った。


「ゆ、がみ、さん……怒って、る…ですか…?」
「当たり前だ」


7年前、師匠を、姉の親友を、心音の母を奪った。その結果己は死刑宣告を受け、心音は心に深いトラウマを植え付けられた。そして現在。彼女はこの1年間ずっと、周囲を欺き続けていた。欺いて、騙して、偽って―――今度は、若い弁護士から親友を奪い、心音に罪を着せようとした。それだけではない。これまで、スパイとして数えきれないほどのものを欺き、奪って、偽ってきたのだろう。今の『彼女』という存在すらも、誰かから取り上げ、仮面として被っているに過ぎない。そんな人間を、許せるわけが―――


「……っ…!…」


ギリ、と唇を噛む。

そんなに強く噛んだら血が出ちゃいますよ、と彼女が弱い呼吸で言ったが、返事はしなかった。


「……っざけんじゃねェ…」


ぐっ、と彼女の肩を掴む手に力が入る。


「ゆが、みさん…いた、い…です、」
「てめェには話してもらわにゃならねェことが、山ほどあるんだよ…!」


だから、


「死ぬんじゃねェぞ…なまえ!」


彼女の目が、一瞬大きく見開かれた。それから、すっと細くなる。


「あ、あは…もう、いまので…しん、でもいい、かも…」
「うるせェ黙ってろ!」
「…ゆがみ、さ……それ、りふじん…」


はは、と力なく声を立てる。その笑顔は、先程までの冷徹なものではなく、1年間彼の隣にあったものだった。


「…ね、ゆがみ、さん…」
「あ?」
「も、いっかい…いって。…な、まえ…『私』の、…」


名前。


「……、」


彼女の目尻から、透明なしずくが一筋、滑り落ちた。

抜けるような青空から、サイレンの音がする。




Machina

(こころをもった、機械のはなし)




↓以下、クリア後感想&あとがき

逆転裁判5のクリア記念に。本当は眼鏡の御剣見たさに購入したのですが、プレイしてみたら色々ぶち抜かれました。ココちゃんの文句なしの真っ直ぐさ、ユガミ検事はヒネくれてるようで芯が通ってて、何この人達かわいすぎ、って思っちゃいました。
番刑事も大好きです。特に、窓からジャスティスのところ。ユガミ検事とも息ピッタリで、今後も世界の中心でジャスティスを叫ぶお二人(多分番さんだけだろうけど)を見られると思っておったのですが…。『亡霊』の正体を暴く時、消去法して「こ、この人しかおらん…」て半信半疑で突きつけました。こんなにペナルティを食らいたかった「くらえ!」は、ゴドーさんの時以来でした。
ともかく、切な過ぎるので『亡霊』を番さんじゃなくしたらちょっとは切なさ半減するかしら、と思って書きました。願望が多分に含まれてるので、ちょっと希望の持てる(??)終わり方になってます。彼女はこれから裁判にかけられ、担当はユガミ検事なのでしょう。もちろん有罪ですが、ユガミ検事が何とか頑張って極刑ではなく、終身刑になるようにしてくれるんじゃなかろうか。一生かけてオトシマエつけてもらうぞ、的な。んで、頻繁にユガミ検事が面会にくればいいよ。あと、いつかココちゃんとも話せる機会が来るといい。全部、願望なんですけどね。では、長くなってしまいましたが、逆転裁判6以降の発売を切に願います。ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました。


20130924




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