※白澤様が受け受けしい裏です。なんでもバッチコーイという方は↓へ。

























いつも余裕で女の扱いが上手くて。自然とエスコートができて、いざそういうことに及んでも自分がリードするのが当たり前、そんな風に思っていそうな人。


「そういう人っていじめたくなりますよね」


なまえはいつも通りの無表情で呟いた。顎に指をやり、彼の腹を跨いで考え込んでいる。見下ろされた方はたまったものではないが。


「ね、ねぇなまえちゃん、」
「なんでしょう」
「いったい何の話なの…?」
「白澤様とどうやって仲良くしようか考えてました」
「仲良く…?」
「平たく言えば貴方を犯そうと思ってる、ってことです」


さらりと言ってくれた。真顔で。冗談ではなさそうだ。彼女はどこかのハシビロコウよろしく何事も手を抜かず真剣に取り組む性分なのだ、性質の悪いことに。


「私、経験自体はそれなりにありますが、こっちをするのは初めてなんですよね」


彼女の中で、このまま事に及ぶのは決定事項らしい。何がどうしてこうなった、と白澤の脳内は混乱を極めるばかり。抵抗しようにも相手は鬼神、腕力で敵うわけもない。


「要するに殿方にしてもらうのと同じようなことをすれば良いのでしょうが…」


くいと首を傾げ、なまえが彼の顔の両脇に手をついた。さらりとした黒髪が頬に流れてきて、うなじがさわりとする。


「まぁとりあえずやってみましょう。案外ノリでなんとかなるかもしれません」
「え、ちょっ待っ―――」


皆まで言わせず薄い唇が塞がれる。半端な言葉はやわらかい舌に押し戻され、絡めとられて終いにはなかったことになった。一瞬何を言いたかったのは忘れかけたが次の瞬間には思い出して、再度彼女への抗議を声にするべく声帯を震わせ―――られなかった。


「…、ふ、」


彼女がくれた呼吸するための隙は、申し訳程度の空気しか与えてくれなかった。言葉を声にするだけの量はない。代わりに目の前の着物を掴んだが、ずるりと頼りなくずれて白い肩口がお目見えしただけである。口角から首筋に、生ぬるい何かが伝い落ちる感覚がした。酸素不足で頭がぼうとして気にする余裕はないけれど。


「…ん、」


さすがに苦しくて力なく胸を叩いたところで、ようやく解放された。


「…白澤様、すごい顔してますよ」「な、に…」


上がった呼吸が収まる前に、黒い頭が首筋に埋まる。同時に太い血管のあたりを強く吸われ、慌てて口を抑えた。


「……!」
「すごく、どきどきします」


少しだけ楽しげな声が耳孔に滑り込んだ。それを追いかけるように湿った質量が耳朶を包んで、背筋が粟立った。


「白澤様って耳の形きれいですね」


ピアスを軽く引っ張りながらだんだんと外側へ移動し、複雑な造形をなぞるように嘗められる。やめて欲しくて顔を背けるけれど、角度が変わったことで逆に舌が奥まで入り込んでしまった。


「っ、」
「声…我慢しなくていいですよ」


私以外誰も聞いてませんし。少し低めのアルトボイスを脳髄に差し込まれながら、ぼんやりと思う。そういえば今夜、弟子は友人と夜通し飲みに出かけている。たまには羽目を外せと他でもない、彼女が焚き付けたのだ。ほろ酔い加減のお師匠様の面倒は、私が見るからと。やられた、最初からこうするつもりだったのかなどとあの世有数の遊び人の名が泣くようなことを考えていたら、いきなり襲った鮮烈な刺激に肩が跳ねた。


「…、…!?」


いつの間にか留め金の外された服を邪魔っ気そうに退け、小ぶりな歯が胸元を食んだ。小さくても鋭さは鬼のそれであり、若干の痛みと、次いで痺れたような感覚に自然と呼吸が浅くなる。


「ほんと肌白いな。ついでにひょろい」


しばらく己の歯と舌を以て愛でて気が済んだのか、顔を上げたなまえは平坦な腹部を撫でながら言った。


「鬼灯様とは大違いです」
「…っきみ、あいつともしたの…?」


こんな状況にも関わらず、胸の内で何かがちりっと焦げた。単純に気に喰わない奴だからか、はたまたそんな相手に彼女を取られたと感じたからか。眉根を寄せる彼に対し、なまえはそこで初めて表情を変えた。ほんのわずかではあるが、微笑んだのである。


「着替えてるところをたまたま見ちゃっただけです。それ以上何もありませんよ」


それからぐっと顔を近づけ、


「もしかして妬きました?」
「!」
「図星ですか。…かわいい」


かわいいなんて言葉、女性には散々言ってきたことなのに。いざ自分に向けられるとひどく恥ずかしい文句に思えた。


「こう見えても私は白澤様一筋なんですよ」
「…さっき、いじめたいとか言ってなかった?」


だんだんと整ってきた呼吸に余裕を取り戻し、ちょっと口角を上げる。するとなまえも同じように笑う。にやりという表現がぴったりはまる、そんな表情で。


「愛のあるいじめです」
「いじめには変わりな…っ!」


減らず口を叩こうとする唇に噛みつかれた。歯がぶつかって痛かったが、それさえある種心地良いと思えてしまうのが大いに問題だと思う。その後最初の勢いが嘘のように優しく食んでから、彼女は言った。


「言葉じゃ貴方に勝てないので、これ以上喋らせないことにします」


どの口が、と言う代わりにぽってりした口の端を軽く噛んでやれば、彼女は一瞬目を丸くしたのち喉の奥で笑った。実に楽しげに、面白そうに。しかしその目はやわらかな色を含んでいる。最早抗う気力なんて根こそぎ奪われ、彼女の手が下衣にかかるのを彼は黙認することにした。


細い指先が腿を割り、触れるか触れないかのぎりぎりで内側をなぞって辿りつく。立てた膝が揺れる。抑えようとしたら更に角度を広げられた。髪を耳にかける彼女と目が合うと「痛かったら言って下さい」と告げられた。声もなく、ただこくんと頷く。

外気に晒されたそれを添える程度の力で握り、彼女はゆっくり身をかがめた。


「……っ…!」


湿った音に耳を塞ぎたくなった。この行為自体は他の子にもしてもらったことがあるのに、おかしなものだ。完全に相手のペースである。それも悪くないと思うあたり、もう色々と手遅れなのだろう。集まった熱のやり場に困って腰が浮き、顎が上向く。喉元を駆け上がる空気の振動を、寸でのところで押しとどめた。しかしそれも、強弱を切り替えながら与え続けられる刺激に抑えが利かなくなってきた。

少しずつこぼれる声がいよいよ切羽詰まって来た頃―――不意に、彼女が顔を上げた。


「…え、…?」


あまりにも唐突な虚無感に困惑して見上げると、ひとつ息を吐いて彼女が微笑んだ。先程までと形は同じだが、その裏の余裕が大分擦り減っていることが、容易に見て取れる。


「なまえちゃん…?」
「…ごめんなさい、もう限界なの。だから…」


いい?――外れた敬語に胸の内を掴まれるような感覚を覚えた。


「…いいよ」


きみの、好きにして。

華奢な首に腕を回して引き寄せ、耳元へそう囁いた。次の瞬間沈んだ腰に、抑えようもなく尖った声が上がる。


「そんなかわいいこと、言わないでよ、」


余裕なくなっちゃうじゃない、なんて。もう十分ないだろと言い返そうとした声は軒並み嬌声に変わる。…ああ、何だか女の子になった気分。


「ねぇ、」


気分ついでに唇を強請ると、今日一番の優しい口づけをくれた。さっきは彼女にやられっぱなしだったけれど、今度はこちらからも舌を合わせて呼吸を絡めとった。


「んっ……ぅ、」


小さく声が洩れるのと連動して、内壁がきゅうと締まった。拍子に達してしまいそうになるのを何とか堪え、緩く突いて彼女の動きに上乗せする。


「あ、っ…!」


思わず、といった様子で零れ落ちた声に慌てて口を抑えたのを見て、彼はちらと笑った。


「…声、我慢しなくていいんだよ」


彼女への小さな仕返しだ。己で言ったことをそのまま返され、憮然とした表情が浮かぶ。

「…貴方こそ」


たくさん、啼いて下さい。

耳元で囁かれたのち甘く歯を立てられた。同時に打ち付ける速度が速くなり、腰が跳ね上がった。無意識に逃れようとするもがっちり掴まれ引き戻される。それどころか更に深く繋がってしまってはもう手に負えない。良いのか悪いのか、これが鬼神の腕力である。


「は、ぁ……なまえちゃ、待っ…!」
「待たない」


取りつく島もなくそんなことを言ったが、彼の額の目に寄せられた唇は優しかった。熱のこもった呼気を吐きながら揺れる背を抱き寄せる。元々の身長差の関係で、彼女の頭は彼の鎖骨辺りに埋まった。「ん、」とくぐもった声が鼓膜を打った。


「白澤さま、」
「んっ……なに?」
「すき」


今日は何度も抑え込まれたり引きずり出されたりしたが、言葉とはやはり大きな力を持つものだ。彼女の紡いだ、掠れたたった二文字が、彼の中に深く刻まれる。


「…僕も、だよ」


胸の上に乗った頬を撫でれば、いとしげに指を食まれた。それと同時にぐっと最奥まで引き寄せられ、煽られた熱が耐えようもなく限界を迎えた。

咄嗟に彼女の背中へ立てた爪の感触を最後に、ふつりと糸が途切れた。






***
「ごちそうさまでした」


お互いに呼吸が整うのを待って、なまえはご丁寧に手を合わせた。表情はいつもの無に戻っている。


「非常に美味しく頂きました」
「…お粗末さま」


そんな風に返す彼は、自身の体を確認してまたひとつため息。


「あー…こんな目立つところに痕付けてくれちゃって」
「人のこと言えませんよ。明日は一緒に白い目で見られましょう」


主にあの常闇鬼神にだろう。しれっとしている彼女は、妙にすっきりした様子で心なしか肌の色艶も良い。…こっちは散々羞恥心を煽られたというのに何だか悔しい。そう思い、彼は身を起して彼女の背中にぴっとり張り付いた。


「…白澤様?」
「ねぇなまえちゃん。“非常に美味しく頂いた”んでしょ?」
「え?ええ…まぁ」
「じゃあさ、おかわりしない?」


え。声にはしなくとも唇がそんな形に作られている。呆けたような表情がかわいくて――やっぱり女の子に言う分にはなんら恥ずかしくない――腰に抱きついた。


「僕はさっきたくさん良くしてもらったから、次はきみの番ね」
「あ、ちょっと…白澤様、?」


するりと指を腿に這わせ、膝裏に手を入れて持ち上げた。反動で倒れてきた体を受け止め、あっという間に組み敷く。一瞬の出来事に目をぱちぱちさせている様を見下ろして、やはりこの位置の方がしっくりくるなぁと心の中で独り言ちた。

諦めて肩口に回された腕がたまらなくいとおしくて、彼は甘くてやわらかな唇を頂くことにした。






初裏でした。予想以上にエネルギーを使いますね。タイトルは裏夢の練習として書いたものということで。でも受け白澤様書くのが楽しかった!今後も要練習です(エネルギー充填できたら)。では、読んで下さってありがとうございました。

20141115



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