何事も急ぐとロクなことがない。もうすぐ薬を取りにやってくる常連の鬼神様のために、梱包や取扱説明書の用意…としなければならないことがたくさんあった。

それもこれも、仕事を後回しにしたあの神獣サマのせい。まったくアッタマきちゃうわねとゴリゴリ皿洗いをしていたら、急いだ拍子に中指を思い切りぶつけてしまった。


「痛っ!」


手を洗って確認してみると、爪の間から血が出ていた。この忙しい時に…。じりじりと痛む指先を見てため息をつく。すると店の奥から上司が出てきた。


「…どうかした?」


さっきの声を聞きつけたらしい。髪の先はぴょこぴょこ跳ねているし、襟元はだらしなく開いている。眠たげに目を擦りながら近寄ってくる様子はかわいいと言えなくもないが、こっちはそれどころじゃない。


「ちょっと指ぶつけちゃって…絆創膏あります?」
「怪我したの…?見せて」


薄ぼんやりとした目つきのまま隣に立ち、白澤は彼女の手を取った。そのままじーっと中指を見つめる。そんなに見てないで絆創膏とってくれよと思いつつ大人しくしていると、

 
「んむ」


不意に指をくわえられた。


「…!!?」


突然の行動に彼女が目を白黒させている間にも指先を温かい舌が舐る。他には誰もいない店内が妙に静かで、湿った音が耳に付く。舌遣いの巧みさになんだか変な気分になって来た頃、ようやく指が解放された。放す時に洩れた吐息に図らずもうなじのあたりがぞくりとする。


「…消毒…しといたから…」


ばんそうこう…と寝ぼけ眼でふにゃりと笑い、上司は薬箱が置いてある方へ歩いて行ってしまった。


「……」


指の地味な痛さも表の聞き慣れた足音も、彼女にはもう届かない。






仕事で中指の爪がミリッといったのでムシャムシャしてやった。この後白澤さんは鬼灯さんに寝ぼけたままぶっとばされる模様。

20141114


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