※ポッキーの日



「エビバデポッキー」
「……」


痺れるようなバリトンボイスがしたと思ったら、上司が両手に棒状のチョコレート菓子を構えていた。更に頭の痛いことに、こちらにじりじりと迫ってくる。…あぁ、勘弁してほしい。


「ご用ですか、鬼灯様」
「お疲れ様です。差し入れ持ってきました」


そう言いつつなまえの椅子を回して自分の方を向かせてから、机と肘掛に手をついて逃げ場をなくした。いつの間にやら口にはお菓子をくわえている。それでなくとも普段より近い距離がやたらリーチの長い菓子によってもっと近くなっていた。なまえは少しだけ背もたれを倒して距離をあけた。


「…差し入れってもしかしなくても」
「ポッキーです」


それはいいが、何ゆえそんな渡し方をするんだ。答えは分かり切っているが、聞かないと拗ねるので尋ねてみる。


「なんで普通に差し入れてくれないんですか」
「今日がポッキーの日だからですよ」


そう言って、上司様はいっそう顔を近づけてくる。ポッキーの先端を見ていたら寄り目になって目が疲れた。そうだ、この人は遊びにも全力投球する人だった。脱力感に襲われながら頭を背もたれに預けていると、頬に手を添えられて鬼灯の方を向かされた。


「せっかくですから、私とポッキーゲームしましょう」
「勝ったらなんかくれるんですか?」
「もう一回プレイする権利を進呈します」


この場合勝ち負けの判定はどうなるのか。素直に唇が触れるまで食べなかったら負けだろうか。相手より早く食べ進めたら勝ちだろうか。どちらにしろ、勝ったらこのわけの分からん遊びをエンドレスリピートする羽目になる。かといって負けたらなんやかんや理由をつけて再戦させられそうだ。…どうあがいてもポッキーである。


「はぁ…わかりましたよ、やります」
「いつになく素直ですね。まぁいいでしょう。では遠慮な、」


バリトンの声は途中で途切れた。彼の首にほっそりとした腕が回り、軽く引き寄せた。間近でパキッという軽快な音がする。


「……そういえば、」


近すぎてぼやけた視界の中、彼女は思い出したように言った。


「私、ポッキーのチョコ付いてないとこ好きじゃないんですよね」


かり。細い焼き菓子の砕かれる音とともに首に回った腕が離れた。彼の唇に、チョコレートで塗装されていない持ち手部分だけを残して。


「この書類、大王様に提出してきますね。差し入れありがとうございました」


そう言って軽く椅子を引き、なまえは立ち上がった。そのまますたすたと扉に向かい、ノブに手をかけたところで振り返る。


「今の、私の勝ちでいいんでしょうか?」


廊下に消える直前、彼女の顔には僅かに楽しげな色が浮かんでいた。


「…なかなかやるじゃありませんか」


残された彼は、やっと声を発せられるようになったのどで呟いた。


「これは是非とも再戦を申し込まねば」


ぎりぎりで触れなかったそこで菓子を噛み砕き、彼はそんな風に宣戦布告をした。






エビバデポッキー!*(^o^)/*



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -