※もしも白澤様がスマホだったら



「なまえちゃん、」


ふわふわと安定しない中、遠くから呼ぶ声が聞こえた。声は柔らかく、でも徐々に輪郭をはっきりさせながら近づいてくる。


「ねぇ起きて。朝だよ」


朝。申し訳ないけれど私はこの時間帯が一番嫌いだった。特にこの時期は。


「あと五分…」
「お約束だねぇ。でもダメです」


きしりとベッドが揺れ、


「今すぐ起きないと襲っちゃうよ」
「……!」


がばり、と起き上がった。同時に腕が何かにぶつかり、「うわあ」と情けない悲鳴も聞こえた。耳を抑えながら覗き込むと、ベッドの下に見慣れた姿が落ちていた。


「早上好、なまえちゃん」


へらりと笑うその男性は白澤。驚くべきことに私のスマホだ。昨今はこんな人としか思えない機械が作られているのである。科学の力って、すげー。


「…なにしてんの」
「お寝坊さんのご主人様を起こしに」
「寝こみ襲おうとしてた、の間違いじゃないの?」
「あはー」


否定はしないらしい。このスマホ、機械(多分メイビーきっと機械)であるにも関わらず女好きである。しかも同じ無機物から(この間は某メーカーの除湿機がかわいいと言っていた)人間まで、ストライクゾーンが広いとかいうもんじゃないぞと言いたくなる節操のなさだ。まぁ、難しい漢字もあっさり答えてくれるし、中国語に一発変換してくれるアプリや東洋医学の辞書も内蔵されている。

ハイスペックには変わりないが毎朝心臓に悪い起こし方をするのはやめて欲しい。アラームは普通の電子音に設定してるはずなのに、何で耳に直接囁くんだ。


「だってそれじゃ味気ないでしょ?」
「起こされ方に味わいは要りません」


そもそも味わってる時間が惜しい。そんな暇があるならぎりぎりまで寝ていたいと思う私は大概ダメな大人なんだろう。


「ていうか今日休みなんですけど。何か予定入ってたっけ?」
「今日は終日何にもないよ」


じゃあ何故起こした。私の視線に、彼は切れ長の目を細めた。


「なまえちゃんのその顔が見たくてさ」
「は?」


訝しげに見れば、彼はころころと笑い声を立てながら、私の頬に指を触れた。


「ほっぺ真っ赤だよ」
「……!!」


ばっ、と布団をかぶり、出来うる限り丸くなる。別に顔を隠すだけならここまでしなくていいんだけど。彼のくぐもった笑い声にいっそう顔が熱くなる気がして、わずかに出した足でスマホ殿を蹴った。



―――――――――
タイトルは無印PORTALのエンディングテーマです。歌詞の内容と話の中身は全然合ってませんが(え)、個人的に無機物っ子といえばこのゲームなのでタイトルに引っ張ってきました。ポータル、知ってる人いらっしゃいますかね?いたらタレットたんとグラドス姉さまの可愛さについて語り明かしたいです。それでは、読んで下さってありがとうございました。

20141103



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