貴方に出会った時から、私を取り巻く全てが変わり始めました。


「おや、見て下さいなまえさん。これは良い色です」


そう言って、道に咲いた金魚草(青紫色)に足を止めた貴方。その横顔はさりげなく、本当にわずかに微笑んでいるような気がして思わず胸が高鳴りました。心なしか顔も熱くなって参ります。詩的な言い方をするならまるでひとつの宝石のような光景でありました、レア度的な意味で。こんな様子、誰でもかれでも目の当たりにできるものではありません。一瞬の情景をしっかりと胸に刻む私に、貴方は採取した金魚草を手渡して下さいました。丁寧に根っこから掘り起こしておられたので、私の手を土がどっさり濡らします。

紅葉するにしても何故黄色とかオレンジとか、もっと健康的な色にならなかったのか。これじゃまるでチアノーゼだよと目で問いかけると、金魚草は私をじぃと見つめて「おっぎゃあああああああああああ」と野太い雄叫びをあげました。


「雄々しいですね。これは期待できそうです、中庭で大事に育てましょう」


そして貴方は踵を返し、来た道を戻り始めました。私の手に金魚草を残したまま。あの、これは一体どうすればいいのでしょうか。


「何をしているんです?早く植え替えしなければならないのですよ」


要するに閻魔殿までこの子を運べと、そういうわけですね。理解しました。別に色気を含んだ理由で花をくれたとかそういうことではなくて。運び屋ですね、そう考えたらちょっとハードボイルドな気もします。

ねぇ鬼灯様。貴方の大切なものは何ですか?






またある時は、貴方の子供の頃の夢を聞かせて頂きました。


「そうですね…歌って踊れるムツゴ○ウさん、とかでしょうか」


結局全然違う仕事してますが。シロちゃんはじめ多くの動物獄卒に囲まれながら、貴方は言いました。壇ノ浦(カラオケの持ち曲だそうです)を歌いながら踊るように亡者を呵責し、動物獄卒のスカウトもお手の物。…そんな風に考えればしっかり夢を叶えておられるようにも思います。


仕事が上手くいかない時には、よく一緒に思い出の場所へ行きましたね。


「この辺りに、通っていた教え処があったんです。ノートに落書きしたり先生に悪戯したり怪しい競売を見学したり…懐かしいですね」


最後のひとつがどうにも引っ掛かりを覚えましたが、深く追求してはいけないと私の何かが囁きました。貴方を包む優しい思い出を無理にほじくるのはよろしくありません。

ねぇ鬼灯様。貴方が心から信じているものは何ですか?




貴方が心から大切なものは何ですか。

私が大切なのは、その分かりにくい笑顔。今までもこれからも見る機会なんてなさそうな涙。今では私の顔を見ると体をわっさわっさ揺らす、あの金魚草(ちょっとかわいいと思い始めました)。貴方が幼い時に抱いた夢。そして、優しい思い出。

貴方に関わる全てが、私にとって心から大切に思うもの。

だから―――


「あ、なまえさん、暇なら水やり手伝って下さい」


たまには私のことも大切だって、言って頂けませんか。





(言わないと分からないようじゃまだまだですね)


―――――――――――
BGM:『恋におちたら』



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