7万打ありがとね | ナノ

※拍手お礼文『清く正しいおつきあい』前日譚




きっかけは、特にありません。

初めてお会いした時、ただ何ということもなく、ああ、この地方の検事局はキャラの濃さが無限大だなぁと思った次第でございます。

私は検察事務官でありますから、これまで数えきれないほど罪人とお会いして参りました。

しかし彼はその中の誰とも違っていて(もちろんひとつとして同じ事件などないのですが)およそ罪を、それも人を殺めるなどという恐ろしい事象を犯すような人には思えなかったのです。

そう言う私を、彼は「人は見かけよらねェもんだ」と一蹴しましたが。

それは以前私も言われたことがあります。

何年も前、当時お世話になっていた検事殿とともにとある犯罪者に面会致しました。

上官が一時席を外した際、その犯罪者(若く、会社では将来を嘱望された青年だったと記憶しております)は温和に微笑んでこう言いました。




「事務官さん。僕、あなたのこと嫌いじゃないな」
「何故です?」
「同類だから」




事務官さん、大人しそうなのに。人は見かけじゃないよね―――

楽しげに喉を鳴らして笑う彼もまた、外から見れば、ほんとうに柔和で大人しそうな人でした。


自分の不思議な嗜好に気付いた時、その言葉をふと思い出しました。




「…また来たのか、お嬢さん」




仕事関係以外でも頻繁に面会に来る私に、彼は毎度呆れたような声をかけます。

お会いしてもうすぐ1年になりましょうか。

その頃すでに私は彼に強く惹かれ、そのお顔、声、目線の動きから髪の流れ、指先の筋に至るまで、出来る限りこの目に映していたいと思っておりました。

面会の回数を重ね、仕事でも関わっていくうち、時々ふっと柔らかな微笑を見せて頂けるようにもなりました。

少なくとも、あのいけ好かない、どうにも信用できないジャスティス刑事殿よりは分かりやすく可愛がって頂けていたように思います。

ただ、いつも彼の肩を占有する可愛らしい猛禽類、ギンちゃんはさっぱり心を許してくれませんでした。

彼の許可を得てその首元を撫でようとしようものなら、今まで大人しくしていたのが嘘のように暴れ出し、私の指を噛み千切ろうと致します。

さすがの彼も驚き愛鳥をなだめていましたが、今から考えるとギンちゃんには分かっていたのかもしれません。

いつかお話しした犯罪者の若者が言ったのと同じことを、賢い鳥は私に対して感じていたのでしょう。


面会室のガラス、両の腕を拘束する手錠、檻、それから――過去の出来事。

私が目に映す彼は、いつも何かに囚われていました。

窮屈で不自由で、普通の人なら心が壊れてしまいそうなものですが、強い精神力でここまで耐えて来たのでしょう。

なんと高潔で尊敬に値する人物だろうかと言うべきところなのですよね、きっと。

そうして7年を経てやっと、色々様々な枷から解放された彼を見て、何等かの肯定的感情を抱くべきなのでしょう。

しかし私の心に浮かんだのは、日の光の下を眩しそうに歩く彼に対する、「残念」の二文字でした。

たくさんのモノに縛られ逃げることもできず、自分の運命を受け入れたように見えて、どこかでまだ生きることへの期待をひとかけらでも持っていそうな。

そんな彼を見ているのが好きだったのです。

かといって、罪を犯してもいない彼の命が奪われるのは許しがたきことですから、出来る限り彼の無罪を証明すべく尽力致しました。

でも、どうしても、喪失感のようなものを抱かずにはおられませんでした。

表向きはこれまで通り接しつつ如何にすべきか悩んでいた時、ふっと例の言葉が浮かんだのです。




「事務官さんは、僕の同類だから」




そうです。

その手がありました。

いつかの、私を同属と言った彼は、いとしい恋人を数年間自宅に閉じ込め、無償の愛情を注いだ結果咎められたのです。




「夕神検事、甘い飲み物はお好きですか?」
「嫌いじゃねェな」




あの後も変わらず彼のもとで事務官を務める私の日課は、休憩時間に日替わりで多種多様な飲み物や食べ物などをご提供することでした。

どんなものがお好みか、今のうちに調査しておかねばなりません。

後で困らないように。

角砂糖を数えながら、封を切った“ソレ”をそっと投入しました。

これは無味無臭で高い効果の期待できるありがたい代物です。

彼好みの味に調整した飲み物を置くと、彼はお礼を言ってカップに口を付けました。

同時に私が腕時計に目をやったのは、次の会議までの時間を確かめるためだと思ったようでした。
「おいしいですか?」
「ああ。いつもすまねェな」
「いえいえ。好きでやっていることですから」




ええ、まったく、その通りです。






みね様へ捧げます。

「清く正しい〜」の続きもしくはあの展開に至った経緯とのことでしたが、如何でしたか?

夢主は一応人並みに常識というか良心も理解はできるけど、それによって自分に歯止めをかけたりすることはないっていう人です。

監禁に関しても、犯罪だって自覚はあるけど夕神さん大好きだし仕方ないよねって考えちゃいます。

なんとも傍迷惑ですが、こういう夢主って書いてて楽しいんですよね!(え)

本当は最後に、夕神さん監禁後のギンちゃんに夢主がご飯あげに行くんだけど食いちぎられそうなくらい思い切り指噛まれて、ああやっぱりこの子は誰が犯人なのか分かってるんだな、ってにこにこしながら思うシーンを挿入しようと思ってましたが、無駄に血表現注意になりそうだったので断念しました。

ご期待に沿えていると良いのですが(どきどき)

最後になりますが、リクエストならびに温かいお言葉ありがとうございました!

年の瀬ということで諸々忙しくなると思いますが、みね様もお体ご自愛下さいね。

それでは良いお年を!


20141229 かしこ


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