※補佐官様がヤンデレ
ねぇ、あなた。
振り向いて下さい。こっちを向いて下さい。
聞こえているんでしょう?
ねぇったら。
こちらを向いて、私を見て下さい。
あなたに友達が多いのはよく知っています。
あなたはかわいい。
食べてしまいたくなるほど、かわいらしいから。
でもね、私は違うんです。
あなたがいないと私はひとりぼっちなんです。
以前は“ひとり”という事実に対してそれほど心を砕くことはありませんでした。
生まれてからずっとひとりで生き、ひとりで死に、鬼としての生を受け、これからもずっとひとりで過ごしてゆくものだと思っていました。
しかしあなたが現れて、私は“ひとり”を強く認識せざるを得なくなったのです。
小説などでは、そういう変化に見舞われた登場人物を「弱くなった」と評することがありますね。
精神面でいえば私も御多分に漏れず弱くなりました。
あなたが他の誰かと話していたり、何かうつくしいものに目を奪われていると、腹の中から臓腑をそっくり抜き取られたような気分になります。
頼るべき重さを失って地面から浮きあがり、何処かへ流されてしまうのではないかと恐怖すら覚えるのです。
どうにかして重みを取り戻さなくては。
あなたで失ったものだから、あなたでしか取り返せない。
ねぇ、あなた。
こっちを向いて、私を見て。
あなた、かわいいですね。
ほんとうに。
たべてしまいたい。
あなたをたべたら、きっと楽になれるのでしょう。
私が持っているものなら何でも差し上げます。
あれもこれも、あなたが欲しいものは何だって。
だから、だから、
あなたを私にくれませんか。
夢を見た。
同じ夢。
昨日も一昨日も、それより前にも見た夢。
生まれてからずっとひとりぼっちで、ひとりで死んで、鬼になったあの子。
――さみしい。
さみしい、きっと、さみしいのです。
あなたしかいない、私にはあなただけ、だから。
何でもする、何でもあげる、お願いです、どこにもいかないで。
ひとりぼっちにしないで――
そう言ってわたしを抱きしめた、思い込みの強い、あの子の夢。
ねぇ、あなた。
あなたがひどい失敗をした時、あるいは実らない恋をした時。
そういう経験がなかったとしたら、そう、何にもない特に記念日でもなくていい、そんな日に「一緒にご飯を食べよう」と誘ってくれる。
そんな人がいなかったかしら?
いたでしょう。
わたしは知ってるの。
その中にわたしはいなかったことも知ってる。
ね?わたしがいなくたって、ひとりぼっちなんかじゃないのよ。
でもあなたはそれに気付かない、気付けない。
きっと慣れていないだけなのね。
わたしはあなたの夢を見る。
わたしからは届かないから、あなたが自分で気付くまで。
そうしていつか、あなたが足を止めた時、きっとわたしは振り返らない。
あなたを置いて行くわ。
それまでは、
「――なまえさん、」
あなたの声が届くところに、いさせて。
Ri-Ko様へ捧げます。
デレてはいたと思いますが、いまいち束縛強い感じが出せませんでした…。
また、このお話は千○千尋○神隠○の『さみしい さみしい』という曲をモチーフとして書かせて頂きました。
リクエスト内容を拝見してヤンデレといえば!ということでこの曲が浮かんだのですが、タイトルからしてアレですが歌詞の内容もけっこうアレです(アレしか言ってませんが)。
宮崎の駿さんが作詞した、カオナシの歌だそうです。
このお話の鬼灯様は、今までひとりでいた分大勢の人から親切にされたり大切にされたりすることに慣れてない→よく分からなくて怖い→夢主というたったひとりに執着することで自分を安心させたいみたいなイメージで書きました。
そして形式上名前変換が最後しかなくて申し訳ありません…!
それでも愛がぎゅうぎゅうに詰め込みましたので、気に入って頂ければ嬉しいです。
それでは、この度は企画へのご参加ならびに温かいお言葉ありがとうございました!
20150127 かしこ