「…ターゲット確認。一撃で仕留めます」


裁判所から出てきた背の高い鬼。その頭部を狙って、引き金を引いた―――が。


「避けられた…!?」


弾丸は獲物を射止めることなく大理石の階段を抉る。スコープから目を外せば、鬼はそこにはいなかった。と、背後に気配。


「……!」
「…かつて“白い死神”と呼ばれた某スナイパーは、レンズに光が反射して敵に発見されることを避けるためスコープは使わなかったそうです」


足音と重い金属音。


「ご存知でした、か?」


言葉が終わるか終わらないか、何かがひゅっと鋭く空気を切り裂いた。続いて屋根に叩きつけられる金棒。石造りの建物が半壊しそうな勢いの一撃は、建材以外にはなにも捉えなかった。ばさり、と間近でした羽ばたきの音に鬼は顔を上げる。ちょうど向かいの建物の屋根に、さっきまでこちらにいた人物の姿があった。黒いスーツに明るい金髪、背中にはいつの間に出したのか純白の翼が一対生えている。


「…随分と物騒なことで御座いますね」
「白昼堂々狙撃するひとに言われたくありません」


会うのは初めてだが、彼はその姿を見て彼女が何者だか瞬時に察した。彼女はいわゆるキューピッドだ。射られれば神も人も関係なく恋に落ちる、恐ろしい弓矢を得物として使用する。しかし時代が移り変わる過程で彼らの武器も形を変えていったようだ。ライフルという、より凶悪なシロモノに。


「誰の差し金かは大体察しがつきますが、私を巻き込まないでもらいたいですね」


鬼は握っていた手を広げた。かろうじて残った屋根の上にころんと小さな弾が落ちた。最初に彼を襲撃した弾丸だ。それは鉛製である。


「黄金の矢で射られれば愛情にとりつかれ、鉛の矢なら恋を嫌悪する。…今は銃弾のようですが」
「そこまでご存知なら、大人しく撃たれて頂けませんか」
「お断りします」


そう一言、鬼は金棒を投擲してきた。それを軽々避けて舞い上がり、彼女はライフルの引き金から指を外した。


「致し方ありませんね。出直すとしましょう」
「もう来なくていいです。……あぁ、そうだ。貴女の“依頼主”に言伝を」


なんでしょう?振り返った彼女を見上げて鬼はそれはもう低い声音で、


「『今から行くから首洗って待ってろ』…と」
「…承りました」


ふわりと翼をはためかせ、物騒な愛の神は去っていった。



* * * * *



「そういう次第ですので。後日、また挑戦致します」
「ちょ、アイツほんとに『今から行く』って言ってたの?」
「ええ。首を洗って待っていろと」
「そのとおり」
「うわっ、出た!」
「お邪魔してますよ。…やっぱり依頼主ってお前か」
「では、わたくしはこれで」
「え!ちょっと待っ―――」


――――――――――――――――
この後めちゃくちゃ喧嘩した。弓の代わりにライフル使うキューピッドが書きたかっただけですはい。

20140818


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