あなただけいればいい。他になんにも欲しくないんだ。


「…何にやついてんですか」
「えへへ」


あなたの腕に頭を乗せて含み笑いをもらす。そんなあたしに、あなたはため息をついただけ。ふと手を見ると、一回りも大きなそれは様々な傷がたくさんついていた。大きいものから小さいもの、治りかけから生傷まで。


「…いたい?」


そっと自分の手を添えながら尋ねると、大したことない、と首を振った。少し前、ようやく日本でも稼働し始めた“地獄”というところで、彼は獄卒として勤めていた。最初は石拾いや拷問器具の手入ればかりだったけれど、近頃は実際に亡者を拷問する役をさせてもらえるようになったそうだ。仕事を任せてもらえるのはいいことだけれど、前よりずっと怪我が増えた。新しく血のにじむそれを見るたび、胸に何かが刺さる。


「ごめんね」


わたしがもっと大きかったら。あなたの負担を少しでも減らせたら。


「何がです?」


わたしの謝罪の言葉が理解できなかったらしく、彼がそっと頭に手を乗せてきた。不謹慎だけど、傷だらけのこの手に触れられるととても安心する。もっと小さな頃、夕焼けの道を一緒に歩いたのを思い出す。あなたに手を引かれて、教え処から家まで帰るその時間が一日のうちで一番好きだった。

答えないわたしの顔を覗き込んできたあなた。その目をちらっと見返して、本当のことは言わないことにした。


「烏頭ちゃんのお母さんにもらったお団子、ぜんぶ食べちゃった」
「………」


てへ、とダメ押しでかわいこぶってみる。食べたのは本当だ。大好きな甘いものを取られて怒るだろうなと思ったけれど、意外にも「そうですか」とあっさり返された。


「怒らないの?」
「いえ。これでお相子ですから」


おあいこ?どういうことだろう。


「昨日お香さんのお祖母様にもらった桜餅、全部食べちゃいました」
「………」


しばしの間、わたしたちは無表情で見つめ合った。


「…桜餅、食べたかった」
「私だって団子楽しみにしてたんですよ」
「……」
「……」
「…ふふっ」


二人して同じことしてるんじゃない、と何だか面白くなってきた。


「じゃあ、次はちゃんと半分こしようね」
「覚えてたらね」
「いじわるー」
「はいはい」


腹いせにむぎゅっと腕に抱きついてやる。仕返し、とばかりに思い切り髪を乱された。もうぐっしゃぐしゃだ。


あなただけいればいい。

他になんにも――欲しくない。



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鬼灯様と妹ポジの夢主でした。タイトルはそのままBGMです。鬱じゃないヨエコさんも素敵。同じ読みのタイトルがもうひとつありますが、こまけぇこたぁいいんだよ!(え)余談ですが、鬼灯さんと白澤さんに思い切り可愛がられるのっていいですよね。恋愛じゃなくて、鬼灯さんは妹離れできないお兄ちゃん、白澤さんは子離れできないお父さんみたいな。保護者な白澤さんが好きです。では、読んで下さってありがとうございました。

20140712



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