※『白豚さんと黒豚さん』続き
※夢主は男性で、鬼灯さんがそこはかとなくアレです。あとは分かるな?(え)




「なまえ様ってモテそうだなー」


衆合地獄の居酒屋にて、茄子は少し離れた席に座る黒衣の人物を見つめた。黒い服なのと三角巾をしていないの、ついでに無表情なのが異なるくらいで後は某神獣に瓜二つである。当の神獣本人は、金棒の強襲に晒されて未だ部屋の隅で伸びている。


「背ぇ高いしイケメンだし、薬学の知識もあるし」


全て某神獣にも当てはまることだったが、なまえとは何故か受け取り方が違う。向かいの部下の言葉に、鬼灯もそちらに目を向けた。


「まぁ、そうですね。昔から、やたらめったらモテてます」


彼らの視線の先、なまえの周りは見事なまでに女性客ばかりが集まっていた。皆せっせと料理やら飲み物やらを勧め、話しかけ、じりじりと迫っている。さすがにちょっと引き気味のなまえは、誘いの全てをひとつひとつ丁寧にお断りしていた。そして烏龍茶ばかり飲んでいる。


「なんかあそこまで来ると逆に不憫だよな…」
「ある意味、白澤様と同じくらい女の人に縁あるよね」
「基本的に非の打ちどころないですからね、あの人。モテるのも致し方なしです」


鬼灯がそこまで褒めるなんて、と唐瓜と茄子は上司を見上げた。美形だが纏う空気が近寄りがたい所為で女性なんて誰ひとり寄ってこない我らが閣下は、さっきからひたすら酒をあおっている。種類は色々だが、軒並み目玉が飛び出るような度数のものばかりだ。


「…これでちょっとでも女性に手ェ出せば、殴る理由が出来るのに」
「鬼灯様、なまえ様のこと好きなの、嫌いなの、どっちなの?」
「何を言いますか茄子さん、好きに決まってるでしょう」
「…なんかこの状況で『好き』って言ったら違う意味に聞こえる…」


さっきまで褒めていたのになまえを殴る理由を探しているらしい。相変わらずよく分からない上司に、唐瓜はため息をついた。まさか彼がそっちの気というわけはないから、単純に人として好きという意味だろうけれど。


「…ただひとつ難点を挙げるなら――」


鬼灯が言いかけた時、なまえにしなだれかかった女性のひとりが高い声を出した。


「ねぇなまえ様、この後のご予定は?」
「兄上を送って帰宅するが」
「アラ、じゃあ何も入ってないんですね」
「いや、家に帰ると――」
「よろしかったら、うちのお店で飲み直して行きません?サービスしますわ」
「すまないが酒は――」
「あっ、ズルイ!なまえ様、寄るならうちにしてうちに!」


彼の周りの女性たちは皆、近所の妓楼の従業員だったらしい。最終的になまえを挟んで言い合いを始めてしまった。その渦中で、なまえはつと首を傾げた。


「…皆そろって具合でも悪いのか?」
「「「…え?」」」
「もしくは、急を要する患者がいるのか」


それならばこんなところでのんびりしている暇はない、と真面目な顔でなまえは言った。周りの女性はきょとんとしている。そんな顔をされて、なまえも頭の上に「?」を浮かべていた。


「…なんていうか、」
「…現実にいるんだな、あんな人」


その様子を見ていた茄子と唐瓜は、鬼灯の言わんとしたことを理解した。あのイケメン医師、驚くほど鈍い。


「ギャルゲーの主人公か!」
「わぁっ!?いきなり机叩かないで下さい鬼灯様!」


あの鬼灯の口からギャルゲーという単語が出たことにも驚きだが、唐突にテーブルを襲った衝撃に皿やらグラスやらが揺れる。慌てて周囲のグラスが倒れないよう防御した唐瓜であった。部下を後目に、鬼灯は少し声を大きくしてなまえの方に呼びかけた。


「なまえさん。お取り込み中申し訳ないですが、ちょっと」


呼ばれて、一瞬目をぱちりとしてなまえは立ち上がった。名残惜しげな声を背中に、こっちへやってきた。


「どうした、鬼灯殿」
「とりあえず座って下さい」


なまえは、唐瓜に隣に座っていいかと尋ねた。律儀な対応に思わず恐縮しながら頷くと、礼を言って膝を折る。


「…鬼灯殿、飲みすぎじゃないか?」
「ええ、そのようです。鬱金持ってません?」
「あることはあるが…」
「あるんだ」


傍らに置いたダレスバッグから取り出したそれを手渡しつつ、なまえは鬼灯に水を差し出した。が、補佐官の指はその隣の、日本酒の入った升にかかった。


「まだ飲むのか」
「当然です。貴方もどうぞ」


そう言って、新しい杯を引き寄せて彼の前に置く。


「…あまり多くは飲めないんだが」
「分かってますよ。酔っ払いに付き合うつもりで、一杯だけ」


およそ酔っているとは信じがたいほどしっかりした声で、鬼灯は手にした日本酒の瓶を傾けた。控えめに注がれた透明な液体を、なまえはちょっと見つめた。それから杯をそっと持ち上げる。両手で丁寧に持つ様が、手の綺麗さも相まって絵になっていた。


「一杯だけなら…」


呟いて、杯を唇に付ける。中身が空になる様子を、何故か鬼灯がじっと見つめていた。




――――――――――――――
このまま行くと本格的に鬼灯様がそっち系になりそうだったので、一旦切りました。いいんだろうか、そっち系でも…(チラッ)それと、意外と黒豚さんが人気で嬉しい限りです。白澤さんが真面目で女好きでもなかったら相当モテそうだなぁ、でも女遊びとったら白澤さんのアイデンティティーが…(え)と思った結果黒豚さんができました。続きはそのうち。では、読んでくださってありがとうございました。

20140628



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