※犬夕神さんと飼い主な夢主



彼女の家には、大きな黒い犬が一頭住んでいる。名前は迅、狼かと思うほど鋭い空気を纏った、目にした誰もが一歩引くような犬だった。家に来客があった時、インターホン越しに彼女が来客に対し入っていい旨を伝え、来客が扉を開けると、目の前にでんと現れるのが彼だ。彼の主人であるなまえは、大きな家でひとりで暮らしている。若い女性の独り住まいを守るものは世間にたくさんあるが、この家の場合は彼だった。

そんな、彼女の用心棒のような彼の一日は、大抵主人の部屋へ向かうところから始まる。


「……」


彼は戸口に座り、じぃっと部屋の中を見つめていた。犬とはいえ男の礼儀として、必要以上に眠っている女性に近づくことはしない。…必要にならない限りは。


『おい、お嬢さん』


呼びかけてみるが、彼女には「わん」という鳴き声にしか聞こえないだろう。


『そろそろ起きねェと遅刻すんぞ』


彼女の職場までは車で20分ほどかかる。いい加減起きないとまずい。低血圧のせいかなまえは朝が弱く、目覚ましをかけてもなかなか起きないのだ。だからほぼ毎日、一定の時間をすぎると彼は、主人が仕事に遅れて上司に怒られないためにモーニングコールをしにいくのだった。彼が声をかけてもベッドの上の彼女はぴくりともしない。仕方ないのでベッドに近寄り、彼女の頭の方まで回った。仰向けで眠る彼女の顔は、とても気持ちよさそうだった。毎回起こすのが躊躇われるような寝顔だが、そうも言っていられない。片方の前足を伸ばして、主人の頬を押した。更にぐにぐにやり、それでも目を覚まさないので今度はちょっと力を入れてべしべしやった。すると、ようやっと少し呻いて身動きをする。


「…んっ…肉球…ぷにぷに…」
『何言ってんだ。とっとと起きなァ』


近くで一声鳴くと、これはさすがに主人の耳に届いたらしい。目蓋がふるりと震えて、開いた。


「…迅?」
『おはようさん』


寝ぼけ眼で手を伸ばし、彼の首筋を撫でようとする。が、元々ベッドの端に寝ていたため、身を乗り出した彼女の体はずるりとベッドから落ちた。割とよくあることであるので、特に焦りもせずに主のクッションになってやった。彼にもたれかかるような格好になった彼女は、眠そうに呻きながらすりすりと頬ずりしてきた。


「んー…もふもふ…しあわせ…」


だから、早くしないと遅刻するというのに。人間ならばため息をついているところだが、彼は如何せん犬であるので、「しょうがねぇなぁ」と思いつつ主人の好きにさせた。それに彼自身、彼女に撫でられるのは好きだ。ひとしきり彼をもふもふしたところで、彼女も目が覚めたようだ。ようやっと首筋から顔を上げた彼女の目は、ぱっちり開いていた。


「おはよう、迅」


にっこりと笑いかけてくる彼女への返事として、彼はほっそりした手にちょっとだけ鼻筋を寄せた。



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以前、バサラで猫三成を書いたことがございます。そのまた前、兎三成も書いたことがあります。それではたと気づきました。ねこなりやうさなりがいるなら、夕神さんで動物パロもいけるんじゃね?…と。で、夕神さんて動物にしたら何だろうな…やっぱり鳥類かな?鳥だったらやっぱり鷹っぽいよなぁ、でも鷹はギンちゃんがいるしなぁ。と考えた結果、大型犬という設定に落ち着きました。でかい、黒い、モフモフ、狼みたいっていう外見だと思います。そして一人暮らしの夢主のナイト的な。夢が広がりますね。それでは、読んでくださってありがとうございました。

20140524



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