※『酒は飲んでも、』つづき



最近、鬼灯の様子がおかしい。沈着冷静でとんでもなく有能な閻魔大王第一補佐官は、どんな時でも忠実に職務を全うしてきた。そんな彼が近頃、周囲の者達を心配させている。まず、ため息が増えた。元々少ないとは言えなかったが、回数は格段に増加している。次に、酒を飲む機会も多くなった。以前は誘われない限り飲みにも行かなかったのに、この頃衆合地獄のとある小さな飲み屋でよく見かけるようになった。そこは女獄卒がひとりで経営するバーであり、隣近所のボッタクリとは違って値段も普通、純粋に酒や食べ物、バーテンダーとの会話を楽しむような店だった。店主は相当な美人だったが、鬼灯に限って女目当てで通うようなことは、ない。ない―――はずだ。


「…鬼灯様。今日は、いつもよりペースがお速いですね」


店主の女獄卒は、音もなく水を差し出しつつ言った。彼が来店してから、既にワインボトル2本が底をついている。鬼である彼は基本ザルだが、それでも消費スピードが速い。閻魔大王の補佐官は、かたんとカウンターにグラスを置いた。


「…飲みたい気分なんです。文句がありますか?」
「いえ。…それより鬼灯様、ワインお好きだったのですね。存じ上げませんでした」


店主が言うと、鬼灯はつとグラスの足を、ゆびでなぞった。切れ長の目が何だか物憂げである。店主は、この第一補佐官がこんな顔をするのを初めて見た。


「…とある方に勧められたものが、とても美味しかったので」


あの鬼灯が他人の勧めたものをそこまで気に入るなんて、やはり意外である。―――「美味しかったから」。理由は、ほんとうにそれだけだろうか。そんな風に思ってしまうのは、男女の愛憎渦巻く衆合地獄に務めている所以かもしれない。


「…その方。もしや、女性では?」


ぴくり。ほんのわずかな揺れが、グラスの中身に伝わる。それを、店主は見逃さなかった。


「…最近、私の店をご贔屓にして下さるのも、そういうことですか」
「…何か言いましたか」
「いえ、なにも」


店主は短く答える。不満そうな顔をしながらも、鬼灯は水に口をつけた。





「……」


またのご来店を、と頭を下げる女獄卒の店を後にし、閻魔殿への道を歩く。どことなく、足元がふんわりと不確かだ。これが、酔っているという感覚なのだろうか。らしくない。自分で言うと、もっと不自然な気がした。どうも最近、妙に酒が飲みたくなるし、何かと理由をつけて基本的に月1回の現世視察を2週間に1回に増やしている。なぜ回数を増やしているのかは、自覚があるのだけど。


「…やはり、彼女に注いでもらうのが一番美味しいですね」


明日は今月1回目の現世出張。ちょうど桜が満開の時期なので、小さな公園で行われる祭りを視察する予定だった。

桜と彼女。

あくまで仕事ということを忘れないようにしなければ、と有能なる補佐官は自分自身に言い聞かせた。




オマケ↓
「…うまく聞き出せた?」
「さぁ、どうでしょうね」
「あ、その顔。なんか分かったんでしょ?」
「いいえ。どこのどなたで、いったい何のお仕事をされてるのか。有力なことは何も」
「やっぱり女の子か!くっ…ふふふ、あははははは!」
「…急に笑い出さないで下さい、白澤様。気持ち悪いです」
「だ、だって、あの性悪朴念仁がだよ?これが笑わずにいられるかっての!あははははは!」
「もう勘弁ですよ。バレたら、あの方うちに来てくれなくなりますから。知りたいならご自分で聞いて下さい」
「つれねいなぁ。ほんとイイ女だよね、君」
「褒めても水しか出しませんよ」



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鬼灯さん2本めです。わかりやすく恋を患ったぽい補佐官。で、様子がおかしい鬼灯さんからなんか聞き出すよう白澤に言われてた女獄卒の図です。鬼灯さんは彼女のことが気になってしょうがないご様子。

20140413




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