※十二国記パロ。夢主と三成が麒麟。






『…台輔』


三成は、遠慮がちな声に手を止め、視線を下げた。


「…どうした?」


少しためらうような間を開け、彼の女怪は言った。


『…昇台輔がお見えです』


ばん、と筆が机に叩きつけられた。ついで荒々しく立ち上がり、三成が低い声を出した。


「…そうか」


それだけ言って、彼は自身の部屋を出る。道を開けて平伏する臣下には目もくれず、彼はとある一室を目指していた。


「…台輔!」


すると、角を曲がったところで弱り切った顔の女官と行き合った。馴染みの彼女は、基本通り礼をしようとして―――三成に止められた。


「今はそんなことはいい。それより、奴はどこだ?」
「いつもの部屋へお通ししております」


彼女が指す先。そこには、他国からの賓客を通す部屋の中でも、特別な一室があった。そこへ招かれる人物は、最高位に近い身分を有する者。王や――麒麟がそれにあたる。


「また刑部が相手か?」
「は、はい…」
「分かった。貴様は下がれ」

言うや否や、再び歩き出す。いくらも行かないうちに、目的の扉に辿りついた。中に声をかけようとして―――


「王手!」


明るい声が聞こえた。極めて遺憾なことだが、三成にとってこの声は馴染み深い。…それはもう、嫌というほど。その瞬間礼儀など脇に蹴り飛ばし、三成はいきなり扉を開けた。叩き割らんがごとき勢いで開かれたそれは、中の壁に跳ね返って三成の背後で轟音とともに閉まった。


「……、…」
「…み、みつなり、さま…?」
「ひひっ…我らが台輔はご立腹よ。なぁ、なまえ」
「そうだねぇ。怒ってるねぇ」
「いよいよ年貢の納め時というやつかも知れぬなァ」
「そうだねぇ。かもしれないねぇ」
「お、お二人とも!笑いごとじゃないッスよ!」
「別に笑ってないよ?ねぇ、刑部」
「そうさなぁ」
「だから何でそんな楽しそうなんスか!」


元々部屋にいた人物のうち、赤みがかった髪の青年だけが焦っていて、他の少女と頭巾の男の2人は顔を見合わせて頷き合ったりなんかしている。すると、今しがた入ってきた三成がつと指を動かした。すると、その腕に一羽の美しい鳥がとまる。凰だ。三成は、どこがびくついている様子の凰をがっしり掴むと、地の底から響くような声で言った。


「…家康を出せ」


すぐさま、凰が人の声で話し始めた。


『三成か?どうしたんだ、そんなに怒って』


のんびりとした声音に、凰を掴む手に力が入る。


「…家康」
『ん?』
「家康ゥゥゥ!!貴様ァァァ!!」


激昂。思わずのけぞる青年と少女の横で、頭巾の男は低く笑っている。


「どうした、だと!?ふざけるな!貴様、自国の麒麟に脱走を許しておいてその言い草とは、どういう了見だ!」
『…あぁ、またなまえが遊びに行っているのか。すまないな』
「謝って済んだら法は要らん!」


怒鳴る三成の横で、他の3人の目は今しがた終局した将棋盤に集まっていた。


「わたしの勝ちだね!さぁさぁ、形部は何くれるのかな?」
「台輔の欲するようなものなど、我ごときが有すると思うか?やれ、困った、コマッタ」
「形部の数珠が欲しいなぁ。あれ、とってもきれいだもん。ひとつでいいから、ちょうだい」
「あれはやめておけ。代わりに、左近めの賽をやろう」
「えぇ!?負けたの形部さんっしょ!?」
「ぬしも我が勝つ方に賭けていたであろ?同じことよ」
「おんなじことだね!」
「なまえ様まで…そんなぁ…」
「貴様らァァァ!!」


関係ない話をしだした彼らに、何度目かの怒号がする。


「呑気に将棋など!私が今何の話をしていると思っている!?」
「えー…いつもの痴話喧嘩?」
「そんなわけがないだろうが!」
「三成ったら、ほんと家康と仲良しだよねぇ。家康はわたしの主上なのに。妬いちゃうよ」
「切り捨てるぞ貴様!」
「おおコワイコワイ。麒麟のセリフとは思えないねぇ」
「…なまえ。私はこれまで、貴様には敬意を払ってきたつもりだ。仮にも王に仕える麒麟だからな。しかし、今度という今度は許せん!」


ゴゴゴゴ、と地響きがしそうなほどの威圧感にさらされても、なまえと呼ばれた少女は臆した様子もない。しかし、一応退散した方がいいと判断したのか、三成の手に掴まれたままの凰に向かって言った。


「家康ー!勝手に抜け出してごめんねー!今から帰るから!」
『ああ、分かった。気をつけてな』「うん!」


明るく返事をすると、今度は凰は三成に向かい、


『今日もうちの台輔が世話になったな。ありがとう、三成』


唐突に礼を言われたのが不意打ちだったのか、三成の怒気がちょっと揺らぐ。


「…黙れ。元はといえば、麒麟をちゃんと見張っていない貴様が悪いんだ」


鋭く刺すようだがどこか角のとれた声音に、なまえは見えないように笑った。相変わらずツンデレね、この古馴染は。


「じゃ、今日のところはこれで。あ、左近、賽は次来た時でいいからね!」
「え!なまえ様ぁ!?」
「お邪魔しましたー」
「もう来るな!」


後ろからそんな声が追いかけてくる。いつものやり取りだなぁと笑いながら、なまえは大きな窓を開けて空に身を踊らせた。


「――小太郎!」


高くその名を呼ぶと、一陣の風が吹いて何かに体を受け止められる。見上げると、仮面に隠れた視線がこちらを向いていた。背中から生えた3対の翼、黒い装束。『風魔』という種族の、使令だ。


「梧桐宮までお願いね」
「……」


小太郎と呼ばれた使令は無言で頷き、なまえを抱え直して翼をはためかせた。


十二国の東端に栄える国・昇。現国主は医術に長けた名君との呼び声高い。そして彼を選定したのは黒麒麟である現昇麟で、字はなまえ。奔放な台輔がいつものように隣国の友を訪ねたのは、東照百二十年春の某日であった。



―――――――――――
最近、十二国記のアニメを見直してます。私はやっぱり楽俊が好きです。人型楽俊にビックリしたのは陽子だけじゃないはず。

20140606




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -