※デビサマ・ライドウパロ。



時は大正二十年。日常の影に潜む人ならざる存在から、人の世を護る者達がいた。


「観念なさい、悪魔よ」


この少女もまた、そのひとりである。少女は黒い外套の下で刀に手をかけながら言った。視線の先には、若い女性がひとり。


「…小娘だからってナメてたけど、意外とやるじゃない」


女性はにやりと嗤う。と、上がった口角が耳まで裂け、女性の体が変異を始めた。瞬きの間に、先程まで人間が立っていたところには巨大な蜘蛛が存在していた。


『まぁいいわ…男じゃないけど、あなた可愛いから。お姉さんとイイコトしましょ?』

「やはりジョロウグモか…」


蜘蛛の誘いをあっさり無視して、少女は刀を抜いた。磨き抜かれた刀身に月光が反射する。


『あら、物騒ねぇ?仲良くしましょうよ』
「断る」
『つれないわねぇ。そんな素直じゃない子は…縛っちゃおうかしら!』


言うなり、少女の方に幾本もの糸が飛んでくる。少女はそれを後方に飛んで避け、追撃してくる糸は手にした刀で斬り裂いた。糸の残滓が舞う中、腰のホルスターから銃を取り出すと、蜘蛛に向かって発砲した。銃弾が蜘蛛の体に命中し、絹を裂くような悲鳴が響く。


『私の美貌に傷をつけたわね!?いくら可愛くても許さないわよ!』


蜘蛛が吠えると、周りの大気がざわついた。


「…仲間を呼んだか…」


呟いた少女が懐に手を入れた時、彼女の周りに同じような蜘蛛が出現した。


『悪いわね。あなたが撃ったのはあたしの友達なのよ』
『カワイイ子ぉ!食べていい?』
『ふふ…どうする、お嬢ちゃん?多勢に無勢ね。ちょっときついかしら?』


悪魔たちの不気味なさざめきに、しかし少女は表情を変えなかった。


「…ひとりで相手しようと思うなら、な」


少女の外套がふわりとなびく。抜かれた手には、淡い緑に発光する管があった。


「我に力を―――」


管の蓋が自動的に回り、外れた。一瞬、緑色の光が辺りに炸裂した―――と思ったら、


「……え?」


キン、と高い金属音がした。それと同時に、応援にきた蜘蛛たちの体が霧散する。


「……不愉快だ」


低い呟きが聞こえて、残った悪魔がさっとそちらを見る。悪魔の残骸の向こう、長身の青年が立っていた。銀髪に紫色の陣羽織を纏い、左手には刀を持った人影は、蜘蛛がそれと認識する前に足場を蹴った。


「蜘蛛如きが遮るな」
「なっ―――」


ひゅっ、と光が一筋閃いて、悪魔の身体が両断される。耳をつんざく悲鳴とともに蜘蛛の巨体は闇に溶けていった。


「……」


蜘蛛を一刀のもとに斬り捨てた青年は無表情で刀を鞘に納め、後ろを振り返った。後方には、少女が何故か呆けたように立ちつくしている。


「…何を呆けている」
「……え!」


声をかけられて、少女がはっとする。


「あ、えーっと…」


少女は困ったように頬に手を当てた。


「なんか、三成が全部ひとりでやってくれちゃったから…」
「貴様を待っていたら夜が明ける」


素っ気なく返しつつ、青年が少女の方に戻ってきた。


「せっかく途中までかっこつけてたのになぁ…一緒に悪魔倒そうと思ったのに」
「貴様につけられる格好など存在していたのか?」
「ちょ、そんな言い方しなくても―――」
「無駄口を叩いている暇があるなら、今の分のMAGを寄越せ」


三成と呼ばれた銀髪の青年は、催促しているのに不機嫌そうというおかしな顔で言った。


「わかったよ、もう…」


そう言って、少女は青年に近付くと彼の両肩に手を置いて背伸びし、薄い唇に己のそれを押し当てた。


「…んっ、」くぐもった声を出して、少女が身体を離す。


「足りた?」


尋ねると、青年はちょっと眉をしかめて答えた。


「…多い」
「少ないよりいいじゃない。ていうか、三成の基準が少なすぎなんだよ。そんなんじゃいつか倒れちゃうよ?」
「要らん世話だ」


あっさり言い、青年はさっさと少女の手にある管に戻ってしまった。


「…もう」


相変わらず素っ気ないというか素直じゃないというか、なんというか。せっかくの相棒なんだから、もっとこう、気を許してくれたっていいじゃないか。今日は不在だが彼女のお目付役である蝶々とは、随分仲が良さそうなのに。


「もっと仲魔と上手に戦えるようにならなきゃ、先輩みたいなすごいサマナーになれないのに…」


彼女がかつて同じ里で修行し、いち早くデビルサマナーとして世に出て行った、憧れの人物を思い出して呟く。すると、不意に管の1本ががたがたと激しく震え始めた。


「え、ちょ、三成?どしたの?」


件の仲魔が入った管が、ばたばた暴れている。何事かと管から出そうとするも、一向に蓋が開かない。中から本人が押さえつけているようだ。


「いきなり何?悪魔でもいた?」
「……」


管はぴたりと暴れるのをやめ、それきり何の反応もしなくなった。そろそろと管に触れようとすると、ばちん、と弾かれる。


「いったぁ!?」


三成のような高位の悪魔になると、管に入った状態でも外に影響を及ぼせるのか。知らなかった、と手をさすりさすり、彼女は歩き出した。とにかく、依頼は完了した。他に悪魔の気配もないし、今日は帰って寝よう。
いつか憧れの先輩のような召喚士になることを夢見つつ、その前に気難しい相棒に心を開いてもらうにはどうすればいいかと悩みながら、少女は帝都の宵闇に消えていった。





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ライドウパロでした。三成は技芸属か蛮力属なイメージがあります。夢主の憧れの先輩というのは、言わずもがな大学芋スキーなあの人です。で、夢主のお目付け役は大谷さん。需要があるかわかりませんが、やっぱり書いてて楽しかったです。では、読んで下さってありがとうございました。

20140403




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