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※某SNSのお題診断より「乱れたスーツ姿で甘えている迅さん」




「…何だこれ」


思わず呟いた。あまりにも珍しかったから。いや、行動自体はそこまで驚くべきことじゃないけど。なまえは慎重に手を持ち上げ、目の前の肩を押してみた。しかしすぐさま手首を掴まれ、顔の横に押し付けられる。…やっぱりダメですか。まぁ、そんな気はしてたよ。耳たぶに軽い痛みが走るが、半ば諦め顔のなまえはされるがままである。彼女が大人しいのをいいことに、その上に覆いかぶさった彼は、白い首筋やら丁度いい厚みの耳たぶやらに甘噛みしたり吸い付いたりしている。


「ちょっと迅さん、」


名前を読んでもくぐもった返事しか返ってこない。さっきも述べたが、別にこの状況自体が珍しいわけではない。彼と彼女は恋人同士なので、いわゆるそういうことをした経験は何度かあった。そこまでいかなくても、日常的なじゃれ合いの中で彼から今のような行動をとってくることはままある。じゃあ何が珍しいのか。


「…あのさ、これだけ教えてくれる?」
「…あァ?」
「何本飲んだの?」


ふわりと鼻先をかすめるアルコールの香りに悪い気はしないが、一応尋ねる。すると彼は、なまえの耳に唇を寄せたままで答えた。


「5本まで数えてた」


そこまで数えたんなら5本目でやめとけよ。…というツッコミは、酒好きの彼女はしない。たとえ、思ったとしても。


「熱燗が美味しい季節だもんねぇ」
「美味かった」
「さいですか」


若干口が回っていないような調子で、端的に感想を述べられる。…ちょっと可愛い、と思ってしまった。まぁ、楽しいお酒だったようだし良いか。それにしても。


「珍しいね。迅さんがこんなに酔うの」


彼は基本的にザルである(ついでに言うとなまえは「枠」だ)。これまで杯を酌み交わす機会は多々あれど、彼が酔っているところなんて1回しか見たことがない。その1回とは、彼が釈放されたその日、関係者みんなでラーメンを食べに行った後大人組だけで二次会をした時だ。ある意味主賓である彼に、なまえを含めその場にいた者は皆せっせと酒を勧めた。そして彼も周りに気を遣ったのと自分も飲みたかったのとで、注がれるままに飲んでいた。検事局長にトドメを刺されるまでに、グラスや徳利の類が小山を作った様子を、なまえは思わず写真におさめたほどである。ちなみにトドメを刺した局長は他の皆に遠慮していたが、ようやっと彼の周りに人が途切れたため、徳利ごと持参して席を移動したそうだ。上司からの労いと祝いの一杯のつもりだったらしい。一応断っておくが、局長に悪気は全くない。その時以来で酔った彼を目の前にし、なまえは珍しいこともあるもんだなと心の中で冷静に思っていた。


「しかも、こんな甘えたがりみたいな酔い方だし」
「…悪いか」
「そんなことありませんよ。ほら、よーしよし」


動物を可愛がるように頭を撫でてやる。普段なら何らかの仕返しが来るが、今日は撫でられるがまま…どころか、気を良くしたのかさらにぎゅうっと抱きしめてきた。


「迅さん、くるしい」
「黙りなァ」
「はいはい」


彼が法廷で反論する際によく用いる言葉を、同業者の検事で言われたのは自分が初めてかもしれないなぁなどと呑気に思う。先程帰宅した彼は、陣羽織とジャケットを無造作に脱ぎ捨てると、こたつに入って明日の公判の調書を確認していたなまえの背後をとってそのままカーペットの上に倒し―――今に至る。さっきからじゃれついてくるだけで、その先に進もうとしないので、本当にただ甘えたいだけなのだろう。


(…ムービー撮ってやりたいなぁ)


でも、見せる相手がいない。一番可能性があるのは心音だけど、そんなことをしたら彼女の中で7年前から彼に対して存在する「優しくてかっこいいお兄ちゃん」というイメージが崩れかねない。さすがにそれは可哀想だ。局長でもいいけど、仕事中に私用で来るなと怒られてしまう。まぁ、こんなレアな姿を他の人に見せるのはもったいない気もするし。携帯に向けた視線を戻す。と、緩んだネクタイにいくつかボタンの外れたシャツが見えた。いつもはきっちりしたウイングカラーの襟元が乱れている様子は、ちょっと胸に迫るものがあった。


「……。ねぇ、」


唸るような返事の後にようやっと顔が上がった。そのせいで襟元が余計はだけて見える。くっきりした鎖骨に無性に触りたくなったが、生憎両手は彼の体に遮られて伸ばせない。仕方ないので唇で触る。せっかくだから、お互い甘え倒そうじゃないか。


「…明日、朝早いんだけどね」
「知るか」
「ですよ、ねぇ」


短い言葉と同時に耳に噛みつかれる。彼の甘え方は大概動物っぽいなぁなんて思いながら、広い背中に腕を回した。




甘党たちの夕べ


――――――――――
スランプっぽいので、某SNSの診断メーカーさんに助言を仰いだところ、「乱れたスーツ姿で甘えている迅さん」と妄想するようにとアドバイスを頂きました。美味しいシチュですが、乱れたスーツというよりお酒に酔って甘えている迅さんでした。素面でスーツ乱して甘える彼の姿がすぐには出てこなかったので、酒の力に頼りました。夢主は一応、5代目拍手お礼文の人です。では、ここまで読んで下さりありがとうございました。


20131023



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