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※中世ヨーロッパあたりのパロ。普通に日本名なのは目を瞑ってください。
万能の天才と受け受けしい若夕神さん



万能の天才。彼女は、そう呼ばれるに相応しい才の持ち主だった。本業は画家だが、医学、法律学、心理学、建築学など多数の学問に通じており、いずれの分野でも素晴らしい功績を残している。その桁違いの非凡さに、人々は彼女を「魔術師」と呼んだ。彼女の才能を快く思っていない者達は「魔女」と称するが、本人は至って気にしていなかった。ただ、彼女にとって「楽しい」ことを日々追求しているだけなのである。そんな、彼女の「自己満足」を気に入って、絵画等を依頼する人物は多い。彼の主人も、そのうちのひとりだ。


「…先生、なまえ先生?」


彼女のアトリエの扉をノックして、呼ばわる。しかし、返事はない。いつものことなので、断りを入れて中に入った。真っ先に目に飛び込んできたのは、部屋の至るところに雑多に置かれた作品群だった。絵画、彫刻――未完成のものばかり。その中の、ひとつのキャンパスの前に、彼女はいた。


「なまえ先生、」


呼びかけても返事はない。集中しているのだろう。その状態の彼女には何を言っても通じないので、前に回って視界に入ることで、己の来訪を告げた。


「……おう、迅か」


今やっと気づいたというように、彼女が顔を上げる。それから、形の良い唇をほんのり歪ませた。


「びっくりさせるな。勝手に入るのは構わないが、せめて声くらいかけてくれるかね」
「かけましたよ、何回も」
「全然聞こえなかったよ?」
「先生、集中すると周りの音聞こえなくなるじゃありませんか」


そうかもな、と返し、彼女は椅子の上で思い切り伸びをした。そらした胸の豊かさが強調されたので、男のマナーとしてそっと目を明後日に向ける。


「真理のおつかいで来たんだろう?悪いが、まだ出来上がっていないんだ」


彼、夕神迅の主人である真理は、数ヶ月前に彼女へ肖像画の依頼をしていた。真理自身、その娘、親友、そして夕神を含めた4人を描いた肖像だ。真理の娘が11歳の誕生日を迎えた記念にと、真理は友人であり画家のなまえに依頼したのだった。しかし、まだ完成していないらしい。どのくらい出来たのかと夕神がキャンパスを覗こうとすると、いきなりなまえが立ち上がって彼を押しとどめた。唐突に顔が接近したので、思わず身を引く。


「なんだ、引かなくたっていいじゃないか。きみは私のことが嫌いかね?」
「いや、そんなことありません、けど…」
「はは、相変わらずかわいいな、迅は。…それはともかく、完成前のものを、嫁入り先の人間に見せるわけにはいかないよ」


嫁入り。作品を送り出すことを、彼女はそう称する。――幸せに、なるんだよ。完成した作品を依頼主に手渡す時、彼女は作品に向かって必ずそう言うのだ。


「特に男に引き合わせるのはよくないな。婚前交渉は褒められたものではない」
「よく言いますよ」


なまえは未婚であるが、「そっち」の方面にもあくなき探究心を抱いているので、婚前交渉云々は彼女が言っても全く説得力がないのだ。本人的にはあくまで研究の一環らしいのだが……天才の思考は夕神には分からない。


「というわけで、もう少し待って欲しいと真理に伝えてくれ」


分かりました、と返事をし、邪魔をしても悪いのでアトリエを出ようと扉に向かう。すると、その背を彼女が呼び止めた。


「なぁ、迅」
「なんですか?」
「せっかく来たんだ、ついでに私の研究に協力しないかね?」
「…なんの研究ですか」
「人体の神秘」


椅子の背もたれに頭を預け、反対向きになった彼女の顔が笑っている。夕神は、ちょっとため息をついた。


「お断りします」
「えー、何でだ?」
「そういうことしたいだけでしょう」
「ほほぉ。言うようになったなぁ、童貞くん」
「?何ですか、それ」
「ん?いや、別に大したことじゃないよ。私は、童貞は素晴らしいことだと思うよ、うん」
「だから、何なんですか、その言葉」
「そうだね。誰も足を踏み入れたことのない雪原、という表現が割と適切かな?詳しい答えが知りたかったら、研究に協力するといい」
「嫌です」
「なんだよ、つれないな。きみは私のことが嫌いかね?」
「そういうところは、どうかと思います」
「どういうところだい?」
「その、誰とでも……ええと、する、ところです」
「何をするというんだね?」


更に追い詰めてくる彼女に、夕神は視線を泳がせながら返答を探していた。適当にはぐらかせて帰ればいいのに、真面目な青年である。


「あの、ええと…その、なんというか…」
「性交渉か?」
「っ!…ろ、露骨な単語選ばないで下さい!」
「はは、かわいいなぁ。しかし、何を声を荒げることがある?きみも将来妻を娶ったら、結ぶことになるんだぞ」
「それは、そうかもしれませんが…!少しは恥じらいというものが、合ってもいいでしょう!」


真っ赤になった彼の顔を、なまえはなんとも興味深げに眺めていた。


「…ふぅん。これは、真理やかぐやが心配するのも納得できるな」
「え?なにか言いました?」
「未来の奥方のために、私が予行演習してやろうか?と言ったよ」
「余計なお世話です!」


叫ぶように言い放ち、彼は扉を少しだけ乱暴に開けた。後ろから彼女の屈託のない笑い声と、


「またおいでよー」


という楽しげな声が追いかけてきた。


「……」


バタンと閉まった扉をちょっと見つめて、彼女はふっと息をついた。


「…いつになったら、本気にしてくれるんだろ」


呟いて、彼女はキャンパスに向かった。


「私の言い方も悪いのかしら。でも、こういう言い回ししかできないのよねぇ。だって、そんなの『先生』には似合わないじゃない」


彼が聞いたら目を丸くするようなことをひとりごち、筆を握る。


「…まぁ、気長にいくか」


愛すべき友人たち+αに色を乗せ、嫁入りの準備を進めていく。ひとりだけ性別が違うαは、穏やかな微笑みを彼女に向けていた。





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パロものワッショイ!\(°∀°)/……というわけで、中世ヨーロッパ辺りパロでした。主人公のモデルは、タイトルでバレバレですがレオナルド・ダ・ヴィンチさんです。そこからとって、名前はレナさんとか、代表作からとってリザさんとか。最後に彼女の口調が変わってますが、ほんとはこっちが素です。夕神さんの前で男性口調なのは、『先生』のイメージを壊したくないという見栄ですね。で、夕神さんが童貞の意味を知らないのは、多分時代錯誤的なアレです、きっと(←え)妙に受け受けしい…書いてて楽しかったですが、いいのかな、これ?では、読んで下さってありがとうございました!

20140328




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