Log2 | ナノ

※雪女と三成さん。現パロ。



雪女といえば。雪深い山奥で生活し、正体を知られると相手を凍った吐息で凍死させてしまう。そんなイメージがある。けれど、時代は移り変わるものだ。人間たちの文明が進むのに伴い、山に開発の手が入るようになった。そして、雪女をはじめとした山に住む怪異たちは新たな居場所を探さねばならなくなった。それならいっそ、人間に混ざってしまえばいいじゃないかと言い出したのが誰かは分からないが、当時としては物凄くぶっとんだ考えの持ち主だったのだと思う。棲家を奪った人間に紛れて暮らすなど、と猛反対されたことだろう。しかし、それから数百年。今では高齢の者を除いてほとんどの雪女たちが人間に紛れ、普通に生活している。雪女たちは、見た目こそ人間とそう変わらないので、馴染むのに時間はかからなかった。しかし、いざ生活してみると色々な弊害が出てくるものだ。……特に、若い男女においては。


「……なまえ」
「…な、なに?」
「…貴様、どういうつもりだ」
「どういうって…なんのことかな?」
「とぼけるな。…何なんだ、この手は」


三成は、己と彼女の間に存在する2本の腕を見やった。元々鋭い眼光がもっと剣呑である。…かなり不機嫌そうだ。悪いことをしたわけではないのに、背中を冷や汗が伝う。なまえはそろそろと視線を外した。手首を掴まれるが、何とか無言の抵抗を試みる。ちらりと見ると、三成の眉間のシワがいっそう深くなった。…ど、どうしよう。そうこうしている間にも、半ば押し倒されている体勢を支える腹筋が辛くなってきていた。一応恋人同士であるふたりにおいては何ら問題ない状況で、第三者は今後のめくるめく展開を予測して静かに目と耳をふさいでやるのが礼儀といえる。しかし、当の本人たちはそうもいかないらしい。


「ええと…なんていうか…心の整理がついてないっていう…?」
「…私とは嫌なのか」
「そ、そういうわけじゃないよ!?きみのことは、ちゃんと好きだよ!」
「では、この手を今すぐ退けろ」
「でっ…できません」
「………」
「わああ、落ち込まないでー!」
「…誰のせいだと…」
「うっ…で、でも、できないものはできないの!」


不機嫌を通り越して悲しそうな顔になってきた彼に、良心が痛みまくる。しかし、これだけは譲れない。…これは、彼のためでもあるんだ。なまえは、現代を生きる雪女である。雪女は体温が非常に低い…というかほぼないに等しく、更には素手で触った対象をどんどん冷やしてしまうという能力があった。なまえの家族は皆、氷を司る妖怪という環境だからいいものの、普通の人間に素手で触れたら凍えてしまう。そして、目の前でほんのりしょぼんとしている彼は、紛れもない人間だった。大学の同級生である彼と付き合ってから今まで、彼に危害が及ばないよう常に手袋をし、直接肌に触れないよう気をつけてきた。いわゆる普通の恋人同士のようなことは我慢しないとならなかったけれど、彼の生命に関わることだから仕方ない。もちろん、彼自身は彼女の事情について何も知らないので、幾度となく『そういう』ことに及びたいという意思表明はあった。その度なんやかんやと理由をつけて回避してきたが、いよいよもって限界らしい。…主に彼が。


(…これは、もうホントのこと言った方が…)


これまで、「初めてだから気持ちの整理のために時間が欲しい」と言って回避してきた(初めてなのは本当だけど)。けれど、これ以上彼に本当のことを黙っているのは辛い。かといって、「雪女です」だなんて言えるわけもない。信じてもらえる範囲で本当のこと……となると、


「何が不満だというんだ…」
「…あ、あのね、石田くん?」
「…なんだ」
「わたしだって、えーと…そういうこと、したくないわけじゃないんだよ。でも、なんていうか…」
「はっきりしろ」


言葉はぶっきらぼうだが、ちゃんと聞いてくれるらしかった。なまえは言葉を選びつつ、ゆっくりと言った。


「あのさ。…わたし、体温低いじゃない?氷みたいって、よく言われるんだ」
「誰がそんなことを言った?残滅してやる」
「とりあえずそれは置いとこうか、ね?…それでさ手とかもすごく冷たいから…その、直接触ったら……嫌じゃないのかな、って」


冷たいよりは、あたたかい方がいいだろう。特に、こういう時には。すると、三成は突然彼女の手を掴んだ。一瞬ひやっとしたが、手袋ははめているのでひとまず安心だ。


「…確かに、いささか温度が低すぎると思ったことはある」
「でしょ?だから…」
「だが、それがどうしたというんだ」
「へ?」


思わぬ言葉に目を丸くする。対する彼は、真っ直ぐになまえの目を見つめていた。


「手が冷たいから何だ?そういう者は気性が優しいと、半兵衛様が仰っていた」
「…竹中先生、意外とそういうの信じてるんだ…」


竹中半兵衛とは、三成やなまえが日々お世話になっている教授のことだ。三成は彼を非常に尊敬しているが…それはともかく。


「所詮ただの冷え性だろう。貴様を愛する上で、何の障害にもなり得ない」
「あ、愛…!?」


何故、こんなことが真顔であっさり言えてしまうのだろう。恥ずかしいとか歯が浮きそうだとかは思わないのだろうか。


「故に、気にする必要はない。…分かったか?」


色々とツッコミたい箇所はあるが、それよりも。


「…石田くんて、天然ジゴロだよね」


そう言うと、彼はほんの少し首を傾けた。


「じごろ…?何だそれは」
「左近くんに聞いたら、分かるんじゃないかな」


いきなりジゴロについて真顔で聞いてくる先輩を前にして、あの後輩がどんな顔をするか、と想像してちょっと楽しくなった。一方、三成は不思議そうにしながらも、なまえの手首を放した。代わりに肩を押してくる。あっ、と思った時には既に遅く、為す術なくベッドに倒された。続いて、ぎゅうっと抱きしめられる。そのまま自分もベッドに倒れこむ。


「…あの、石田くん?」
「なんだ」
「ええと…その…」


そういうことに、及ばないのか。そう聞こうとして、やっぱり恥ずかしいのでやめた。彼は結局なまえを抱き枕にすることにしたみたいだし、このまま大人しくしておこう。もぞもぞと掛け布団を引き寄せながら、そんなことを思った。手繰り寄せた布団の下に入り、彼の胸に顔をうずめた。


「体冷やすのは良くないからね」


主に冷える原因はわたしだけど。そんな彼女の心の内を知らない彼は、極度の冷え性の恋人を彼なりに温めるべく、しっかり背中に腕を回した。





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またまた妖パロでした。今度は夢主の方が妖怪です。本文中では、素手で触ると対象を凍えさせてしまうという能力に悩んでいる夢主ですが、日常生活では夏でも飲み物がぬるくならないとか、アイスクリームを簡単に作れるとか、けっこう重宝している面もあります。そして無自覚タラシな三成。彼は、好きになった人には物凄く一途なんだろうなぁ。歯が浮くような愛の言葉もシンプルにスパーンと言っちゃいそう。狙ってるんじゃなくて、あくまでそう思ってるから言っただけ、みたいな。天然ジゴロ恐るべし。いつか夢主の正体がバレても、「だからどうした」「そんなもの大した問題ではない」とか言うんでしょうね(笑)では、読んで下さってありがとうございました。

20140323







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