Log2 | ナノ

※現パロで夢主が吸血鬼。



「お邪魔します」


一応声をかけはしたが、その女は家主の返事も待たずに部屋の中に入ってきた。


「…なんだ貴様は」


家主の彼がそちらを見て眉根を寄せる。その手は、壁に立てかけられた竹刀に伸ばされつつあった。その間、突然現れた女に油断なく向けられたままだ。


「夜分に失礼、お兄さん」


開け放たれた窓から入る月明かりの下、女はにっこりと笑った。唇からちらりと八重歯が覗く。生まれて二十余年、彼が見たこともないほどの極上の美女だった。しかし、彼は他人の容貌に頓着する性分ではない。この時も、女の美貌に惑わされることなく竹刀を手に取った。鋭い空気を放つ彼に対し、女は楽しげにのどで笑った。それから、窓のへりに置いていた靴を取り上げた。


「ねぇ、靴どこに置けばいいかな。こっちじゃ、土足は失礼なんでしょ?」
「何を言っている?」
「いやさ、言い訳すると、ちゃんと玄関から入ろうと思ったんだよ。でもこの家、やたら鋭い子ばっかりいるじゃない?あんまり音立てて気付かれたら面倒だしなぁって」


言っていることは分かるが…解らない。


「貴様、用がないなら即刻立ち去れ。切り捨てるぞ」
「用があったらいてもいいの?優しいねぇ」


からかうように言われ、女が唐突に動いた。


「…!?」


音もなく瞬きの間に間合いを詰められる。もうすぐ鼻先が触れてしまえるほど近くまで接近した女は、するりと彼の手に己のそれを重ねた。途端、竹刀の柄を持った手に力が入らなくなり、身を守る道具を落としてしまう。


「こんなので叩かれたら痛いよねぇ。痛いのはやだな」
「き、貴様――」


なんとか逃れようとするも、体が動かない。目を丸める彼に女は目を細め、細い指で血色の良くない頬を撫でた。氷のように冷たい感触がする。


「ううん…ちょっと不健康そうだけど、美人だからいいか」
「なにを――」
「いただきます」


次の瞬間、女の顔が彼の首筋に埋まった。続いて鋭い痛み。


「っ…!?」


しかし痛みは一瞬。すぐ近くで、女の喉が鳴る。…何かを飲み込んでいるようだ。


「…う」


と、何故か女が呻いた。―――と思ったら、がばっと顔を上げる。


「うっす!」
「……は?」
「味薄すぎ!ちょっとお兄さん、ちゃんと鉄分摂ってる!?」


彼の肩を掴み、女は詰問口調で言った。


「あと、タンパク質は?ミネラルは?肉とか海藻とか、偏りなく食べてる?」
「嫌いではないが…好んで食べるほどでもない」
「なに言ってんの!若いうちからちゃんとした食生活してないと、後が怖いんだからね!」


何故かぷりぷり怒りながら、女はかがんでカバンを漁った。そして、中から焦げ茶色の水筒を取り出し、彼に突き出した。


「とりあえずこれ飲んで!」
「…なんだ、これは」
「なまえさん特製スペシャルドリンクだよ。…あ、私なまえっていうの。よろしくね。…で、この飲み物、ご飯にありつけなかった時用の栄養ドリンクみたいなもんなんだけど――」
「……?」
「毎日、晩ご飯の後に飲んでね。いい?ちゃんと毎日飲むんだよ」


彼が受け取らないので、焦れた女が机の上に水筒を置いた。と、その時。ゆっくりとスリッパを引きずるような足音が、階下から聞こえてきた。


「やば!…じゃあね、お兄さん!しっかり栄養摂るんだよ!」


窓を開け放ち、窓の縁に足をかけながら女は言って、さっさと外に出た。


「っ!…待て!」


慌てて窓に駆け寄る。しかし、眼下には月明かりに照らされた町並みしかない。華奢な女の影など、どこにもなかった。


「……、…」


なんだったのだろう。瞬く間に色んなことが起きて、いったいどれが本当のことなのかわからなくなってくる。しかし、机の上に目をやると、そこには確かに見慣れない水筒が置かれていた。……どうやら、夢ではないらしい。


「…三成?まだ起きているのか」


階下から聞こえた足音の主は、たまたま泊まりにきていた友人だったようだ。遠慮がちなノックの後に声がかけられる。


「…少し、寝つきが悪いだけだ。貴様はさっさと部屋に戻れ」


彼がそう言っているので、友人は心配そうにしながらも戻っていった。


「……」


水筒を持ち上げると、なかなか重い。中身はまだたくさん入っているようだ。


「…なまえか」


あの、不可思議な女。彼女の正体はよく分からなかったが、悪意があるようにも見えなかった。彼は、水筒片手に窓の外に目を向けた。雲が通り過ぎた後の空には、満ちた月が煌々と照り映えていた。




――――――――――――
お節介な吸血鬼夢主と不摂生な三成でした。前に、テレビで某栄養ドリンク?か何かのCMを見たのがきっかけで出来たお話です。そのCMでは、吸血鬼が男性で女の子の血を吸って「うすっ」と一言…栄養ドリンク?か何かを渡すっていう感じだったと思います。うろ覚えですが、もう放映してないのかな?ご存知の方がいらっしゃったらご一報を。夢主お手製ドリンクは、きっとめくるめく味がするんだと思います。んでもって栄養満点。こう言っちゃ悪いけど、三成の血って美味しくなさそうですが、家康とか左近は美味しそうな気がします(え)では、読んで下さってありがとうございました。

20140313




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