Log2 | ナノ

※memoで妄想してた、夕神の妹設定。




それを聞いた瞬間、成歩堂龍一は動作を停止した。彼の反応に、夕神は携帯を仕舞いながら眉根を寄せる。


「…何見てんだよ」
「あ、いえ、すみません…」


曖昧に返し、成歩堂はちらっと他の面々を見やる。王泥喜と心音、2人の部下はそろって頭の上に「?」を浮かべて上司の視線を見返した。


「?ナルホドさん、鳩が鉛玉食らったみたいな顔してどうしたんですか?」
「それもう死んでるぞ、ココネ」
「あ、もしかして知らなかったんですか?」


心音のボケるつもりのなかったボケに律儀につっこむ夕神をよそに、王泥喜は上司の表情に合点がいった様子だった。


「ユガミ検事の妹さんの話」


成歩堂なんでも事務所に集まった4人(3人は職場だからいいとして、あとの1人は何しに来たのだろうか)は、お茶なんか飲みながら他愛のない世間話に興じていた。そして、話の途中で夕神の携帯に着信が入り、表示を見た彼が他の面々に断りを入れて事務所外に出た。しばらくして戻ってきた彼に、心音が相手を聞くと、「なまえ」という聞き慣れない名前が返って来た。名前からは性別の区別はつかなかったけれど、夕神が名前を呼び捨てているので、少なくとも彼と親しい人物ではあるのだろう。すると次に王泥喜が、


「妹さん、日本に帰って来てるんですか?」


と聞いたものだから、成歩堂は思わず冒頭のような反応をしたのだった。夕神には9つ上の姉がいて、彼女のことはよく知っている。話したこともあるが、そのキャラクターが強烈で、他に兄弟がいるなんて考えもしなかったのだ。事情を察した夕神は、意外そうな顔で言った。


「ココネか泥の字から聞いてなかったか?」
「生憎、初耳です」


心音はともかく、どうして王泥喜まで知っているのだろう。自分だけが知らないという状況が、仲間外れにされたようであまりいい気持ちはしない。何で教えてくれなかったんだ、と文句を言いたいところだが、それはさすがに大人げないので黙っておいた。すると心音が笑って謝ってくる。


「ごめんなさい、ナルホドさんのことだから、とっくに知ってると思ってました」


部下の中で自分がどう思われているのか心配になった。


「妹さんいたんですね」
「まぁな」


成歩堂は、改めて目の前の検事を観察する。彼の顔かたちから、妹なる人物の容貌を想像してみたが難しかったので、姉であるかぐやの方で考えることにした。現代に生きる侍のような夕神が、姉と妹に挟まれているのがちょっと意外に思えた。妹さんの性格も、彼や姉のようにクセがあるのだろうか。とりあえず、王泥喜が言った「日本に帰って来ている」という言葉からつっこむことにした。


「妹さん、海外にいるんですか?」
「仕事でな」
「なまえさん、飛行機のパイロットなんですよ!」


勤務している航空会社は、ゴーユーエアラインとのことだった。国内では名の通ったところで、成歩堂も友人の頼みで海外へ行く際によく利用した。そこに身近な人物の親族がいたとは、世間は狭いなと思う。


「海外の航空会社に研修に行ってたって聞きましたけど、終わったんですね」
「今日帰国したんだ。さっきの電話、空港からかけてたらしい」


昨日研修終わったのに急だよなァ。兄はそんなことを言っているが、満更でもなさそうである。やはり、妹に会えるのは嬉しいんだろう。


「まぁ、ちょくちょく帰っては来てたんだが」


聞けば、なまえという名前の妹は休みを利用して何度か帰国し、兄に会いに来ていたとのことだった。


「あの事件の法廷にも傍聴に来てたんですよ」


心音がいう「あの事件」とは、彼らの運命を大きく変えてしまった「UR‐1号事件」のことである。成歩堂は弁護人としてその場にいたのだが、夕神の妹らしき人物とは顔を合わせていない。


「審理終わってすぐ戻ったからな、あいつ」


本当は仕事なんて休みたかった、兄さんホントに良かったね、と号泣しながら帰って行ったのだという。なんだ、兄思いの良い子じゃないかとちょっと安堵した成歩堂である。



「空港に迎えに行かなくていいんですか?」
「姉貴に面会してから来るから、また後で連絡するってよ」


そうですか、飲み物用意しときますね。何好きですか?緑茶だな。やたら渋いの。あ、なまえさん和菓子好きでしたよね?普通にそんな会話をしている3人に、成歩堂は待ったをかけた。


「ちょっと待って、」
「?何ですか、ナルホドさん」
「ええとユガミ検事、妹さん…ここに来るんですか?」


3人は、揃って「何でそんなこと聞くの?」という顔をした。





「……つ、着いちゃった…」


なまえは、眩しそうに上を見上げる。彼女は今、『成歩堂なんでも事務所』―――が入っているビルの、入り口前にいる。姉に面会した後、兄に電話で言われた道と、ネットで検索した道とを照らし合わせながらやってきた。道行く人々はちらりと彼女に視線をくれて通り過ぎる。真っ昼間に派手な柄のスーツケースを携えた制服姿の女性が、元法律事務所を見上げているのだ。目立つことこの上ない。なまえの中には人一倍羞恥心というものがあるのだが、それでもなかなか、足を踏み入れることができなかった。何故か。


(……成歩堂なんでも事務所…)


だってここには、“彼”がいるから。


「と、とりあえず、兄さんに連絡しなきゃ…」


と、ポケットから携帯を取り出して兄にかける。中にいるはずの兄は、1コールで電話に出た。


『今どこだ?』


簡潔に、要件だけ聞いてくる。それに対し、なまえは小さな声で答えた。


「…事務所の下…着いた…」


すると、不意に見上げている先の窓が開いて、兄が顔を出した。携帯を耳に当てたままで言う。


『もう着いたのか。上がって来い』
「う、うん」


答えて、スーツケースの持ち手をぎゅっと握る。


「なまえさーん!お帰りなさい!」


続いて心音も顔を出す。こちらに大きく手を振る様子に、強張った頬も緩んだ。


「ココネちゃん!…ただいま!」


なまえにしては大きな声で返事をすると、いっそう周囲の視線を集めたが気にならなかった。意を決し、彼女はスーツーケースを引いた。





「…ただいま!」


そんな声が、外から聞こえてきた。夕神の妹が到着したというので、窓から顔を出していた兄と心音が窓を閉める。心音が嬉しそうに言った。


「なまえさん、元気そうでしたね!」


スーツケースも元気でしたし。元気なスーツケースってなんだと思いつつ、階段を上がってくる足音に気付く。コツコツというヒールの高い靴特有の音が間近に近づいて止まり、続いてドンッという何だか重い物を置いたような音がした。そして、扉がノックされる。


「す、すみません。成歩堂なんでも事務所は、こちらでよろしいでしょうか…」


遠慮がちな、小さな声がした。夕神と心音が同時に立ちあがり、心音の方が一瞬早くドアノブを捻る。


「なまえさんっ」
「…あ、ココネちゃ、」


開いた扉の向こうにいたのは、紺色の制服姿の女性だった。彼女はいきなり抱き着いてきた心音をよろめきながら受け止め、スーツケースにつかまっている。…なるほど、ド派手な柄で、ある意味元気なスーツケースだ。微妙な角度で支えているためか、ケースの持ち手につかまった女性の腕がぷるぷるしてきた。それを見て、夕神が心音の首根っこを掴んで引き離した。猫の子のようである。解放されて一息つき、女性が笑って兄と心音を見た。どこか力ない感じの笑顔だった。


「…元気そうだね、心音ちゃん」
「そりゃもう!」
「もうちょい落ち着きあってもいいと思うぜ」
「ユガミ検事、それはちょっと…希月さん、元気が取り柄みたいなところあるから」
「夕神さんも先輩もひどくないですか!?」
「・・・ふふ」


ちゃっかり王泥喜まで会話に参加していて、取り残されているのは成歩堂である。このままでは寂しいので、やや割り込むように声をかけた。


「ええと・・・ユガミ検事、そちらが妹さんですか?」


すると、それまで笑顔だった女性が、はっとしてスーツケースの持ち手をぎゅっと握りしめた。その仕草をみとめて、王泥喜と心音が同時の「ん?」という顔をしたが、兄の方は普通に返答した。


「ああ。・・・なまえ、挨拶」


促されて、女性は「え、あ、その、えっと、」とあからさまに動揺した。被っていた帽子を脱いで引っ張ったり押しつぶしたりしながら、ようやっと口を開く。


「あ、あの・・・ええと・・・・・ゆ、夕神なまえ、です・・・」


どうしたんだろう。謎の反応に内心首を傾げつつ、よくよく見ると彼女の顔に見覚えがあることに気付く。あれ?どこかで・・・


「・・・あ」


思い当たった。


「君・・・もしかして、この間の?」


試しに聞いてみると、なまえはびくっと体を震わせた。しかし、どこか嬉しそうである。


「・・・お、覚えてて・・・くれたんですね」


やっぱりそうか。妹と上司の様子に、今度は残りの3人が首を傾げる。


「・・・知り合いか?」


特に兄は、若干眉をひそめている。その様に気づいているのかいないのか、妹は恥ずかしそうに下を向いた。


「し、知り合いってほどじゃないけど・・・」


話によると、以前彼女が搭乗していた旅客機で客の持ち物が紛失し、犯人として客室乗務員が疑われるという事件を起きたのだそうだ。被害者の客が騒いだことにより機内は一時騒然となったが、事件はひとりの乗客によって解決された。実際には他の客が盗んで乗務員に罪を着せていたという真実を解明したのはひとりの日本人弁護士―――成歩堂である。疑われた乗務員はなまえの友人であり、なまえにとって成歩堂は友人を救ってくれたと同時に、今となっては兄を助けてくれた人物のひとりでもあるのだ。


「だから・・・あの、成歩堂さんには、感謝してもしきれないというか・・・」
「そんな、いいんですよ。それが僕の仕事ですし」


と、ちょっと謙遜してみる。本当は、UR-1号事件関連は自分でもよくやったなぁと思わないこともないのだが。それを聞いて、なまえはどこかふわふわした目で彼を見、なぜか帽子で顔を隠した。間近で見ていた外野3人には分かったが、耳が真っ赤である。


(心の音がバシバシ聞こえてくるわね・・・)
(外・・・寒いからなぁ)
(・・・外、寒かったからなァ)


男性2名は揃って見当違いな心配をしているが、女性1名はなまえの反応になんとなく合点がいった。寒さで赤くなっていると思った兄と先輩が、それぞれ暖房の近くに座るよう勧めたりお茶を淹れに行ったりしている中、心音はひとり静かに、全力で応援することを誓った。





―――――――――
前にメモで妄想した、夕神さんの妹設定でひとつ。逆裁をまったく知らない友人に夕神さんの周辺情報を話したら、「それで妹もいたらいいね」と言われたので書きました。上の2人があんなキャラなので、末っ子くらいはとっつきやすい子にしようと思いました。あと、年上好き。上なら何歳まででもOK。あとは、夕神さんを「お兄ちゃん」て呼ばせたかったです。タイトルは、夢主とナルホドさんが10歳差なので。

20131113



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