年齢28歳、職業検事。7年前(当時21歳)、大河原宇宙センターにて発生した研究員殺害事件の容疑者として逮捕。死刑判決を受ける。現在、検事局長直々の辞令により例外的に検事に復帰している。


「7年前の…UR-1号事件ですか。そういえば、当時ニュースでやっていたような気もしますね」


7年前といえば、わたくしは11歳。クラスで最後のランドセルユーザーになった、小学5年生のあの頃。周りがショルダーバッグや某スポーツブランドのリュックを携えてくる中で、わたくしだけは頑なにランドセルを背負い続けました。今から思えば少し頑固だったかもしれません。

それは良いとして、7年前の事件の被害者のお名前に、何となく覚えがありました。希月真理教授。心理学の権威で剣術の達人。コンピュータ分野にも精通しており、心を持ったロボットの研究を行っていた――と、入手した情報にはあります。どこかで聞いたような名前ですが、それよりも。


「188cm…素晴らしい高身長。身長差30cmか、そのようなアレがしやすいのは22cm差といわれておりますが…まぁなんとかなるでしょう。愛があれば問題ないのです」


それにしても死刑囚とは、さすがに予想外でした。しかしそれしきで恋する乙女は止められないのです。あの方とわたくしの間に存在する壁など、如何様にもなります。…ただ、そのためには相応の情報が必要なのでございます。


「…そろそろ時間ですね」


約束の時間に遅れるのは、淑女としてあってはならないことです。幸い、待ち合わせの商店街はここから遠くありません。持ち物の確認と戸締りをしっかりして、辺りに誰もいないことを確認してから、歩き慣れた廊下を進みます。この広い校舎の中でようやく見つけた、教員も朋輩たちも知らない隠れ家。一見して整備用のハッチにしか見えないであろうその扉は、屋根裏部屋へと続いているのです。見つけたのは全くの偶然――いえ、もしかしたら必然だったのかもしれません。


「…ん?志奈子?」


スマートフォンを取り出して連絡を行おうとしていると、向こうから道着姿の男子生徒が歩いてきました。携えた弓に気取った態度、鼻持ちならないそのメガネ。名前は……何だったかしら。


「おい!無視するな!」
「おや、誰もいないのに声だけが。あな恐ろしや」
「僕はここだ!ド近眼か君は!」
「ごちゃごちゃとうるさいですわ、ウザ矢零さん」
「静矢だ、いい加減覚えろ!何年の付き合いだと思ってるんだ!?」
「初対面ですけど?…では、わたくしはこれで」
「あっ!待て!」


これだから自称天才はいけません。年上は年上でも、やはりどっしり構えた貫禄のある殿方がわたくしは好きなのです。そう、あの方のように。




先日、水族館でわたくしに(結果的にはあの方にかかってしまいましたが)水をぶっかけた黄色い女性は、希月心音さまと仰いました。後から調べがついたことですが、例の7年前の事件の被害者である、希月真理女史の御息女です。ということは、あの方ともお知り合いなのでは?しかも彼女は弁護士です。検事とはいえ囚人であるあの方に面会したくても、わたくしは今のところまったくの他人ですから、そうすんなりとはいかないでしょう。その点弁護士ならば、一般人よりは接点があると思われます。

しかも心音さまはとても易し……いえ、優しいお方です(扱いが、とかそういうわけではございません)。わたくしの代わりに水をかぶったあの方にお詫びがしたいと相談すると、一緒にお礼の品を選んでくれると仰って下さいました。


「志奈子ちゃん!」


待ち合わせ場所に到着して5分、時刻ちょうどに心音さまはやってきました。黄色いスーツがよくお似合いです。


「ごめん、待った?」
「いいえ。わたくしも今来たところですの」


ああ、心音さまには申し訳ありませんが、こういうやり取りは愛しい方としたいものです。


『悪ィ、待ったか?』
『いいえ。わたくしも今来たところですわ』
『そうかい。可愛い奴だな』


そうして例の斜に構えた微笑みを送って下さったら……はぁ、白ごはんが美味しゅうございます。


「…夕神さん、なかなかそういうこと言わないと思うけど…」
「あら、心音さまは読心術でもお持ちなのですか?」
「全部声に出てたよ。夕神さんの物マネ妙に上手だったし」


そういう心音さまは、あの方のことを何だか知っているような口ぶりです。やはり、読みは間違っていなかったようですね。


「夕神さまは、心音さまのコレなのですか?」


さり気なく親指を立てると、心音さまは顔を真っ赤にして首をぶんぶんと振りました。


「ち、違うよ!?ただ小さい頃にお世話になったっていうか、一緒に遊んでもらったっていうか…!」
「ほう…ナニをして遊んだと?」
「いやいやだから違うってば!ていうか当時わたし11歳だよ!?犯罪です有罪です!そ、そんなんじゃなくって、迅く…夕神さんはお兄ちゃんっていうか…!」


少し誘導してあげただけで、心音さまはポロポロ喋って下さいました。やはり易し…優しいお方ですね。それより、今ちらっと「迅くん」って言いかけましたよね?羨ましい、いつかわたくしもそんな風に―――


「…何だかついつい喋っちゃうなぁ。志奈子ちゃん、すごく聞き上手なんだね」
「お褒めに預かり光栄ですわ」


そうこうしているうちに、着いたのは和菓子屋さんでした。


「夕神さん、けっこう甘いもの好きだったんだ」


好み変わってないといいけど、と心音さまは店内のお菓子を見繕っています。


「どら焼きとか…あ、ういろうもよく食べてたなぁ」
「我々はそれを完成品とは認めない!」
「え?」
「何か変な電波受信しました。それより、甘党系美丈夫ですか…これはなかなか…」
「志奈子ちゃん?」
「なんでもございません」


ヤバい萌える
(そちらのお饅頭など如何でしょう?)
(志奈子ちゃん、トノサマン好き?)
(オニャンコポン派です)



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