5 | ナノ
 



背後から物凄く低い声が聞こえる。
誰かは分かってる。
分かってるからこそ振り向けない。
絶対怖い顔してるから。

「何?前崎。お前は人集りに埋もれてチョコでも貰ってなよ。優は僕が貰うから」

やっぱり疾風さぁぁんっ!
怖い。なんか後ろから殺気感じてるんですけどぉぉっ!
てか、何でここに?さっきまで教室にいなかった?

「もう部屋に帰るんだよ。勿論、優と一緒に」

そのまま強引に蓮から引き離された。
蓮は俺を引き留めようと手を伸ばしたけど思わず逸らしてしまった。
蓮、驚いた顔してる。
ぶっちゃけ俺も驚いてる。
何で手が逃げちゃったんだろ。

「れっ、蓮っ!チョコちゃんと食べてくれたらっ、すっごいお返しあげるからっ」

自分の行動を誤魔化そうとテンパり過ぎてそう叫んだら蓮がニヤッて笑った。
よく考えたらおかしくね?
チョコあげたのにお返しまであげたらおかしくね?

「楽しみにしてるよ」

まぁ、蓮が嬉しそうだしいっか。
でもそのやり取りのお陰で俺の手を握る疾風の手の力が強まった。
折れちゃうっ折れちゃうよぉおっ!









「優、俺には?」

所変わって疾風のベッドの上にいます。
真正面でムスッとした顔の疾風にビクビクしてたのに部屋に戻ってからの第一声がこれ。
口ポカンってなった。

「え?何が?」

俺には、何?
首を傾げてたら疾風がチョコの空箱とかしか入ってない紙袋を指差した。

「だから、チョコ。俺には?」

あれ?もしかして拗ねてるの?
チョコ貰ってないから?
でも他から貰ったじゃん!
俺だって拗ねてやるんだから!
ツーンって唇を尖らせてプイッてした。

「疾風は俺から貰わなくてもいっぱいじゃんか…何にも言わずにこっそり貰いに行ったじゃんか」

段々声のトーンが落ちてるのが分かる。
でも俺、何でそんなに気にしてんだろ?
疾風がモテるのは今に始まった事じゃないし毎年こうやってチョコを貰ってるのかもしれない。
俺はお世話になりましたって気持ちで渡すんだから他のチョコを気にするのはおかしいのに。
何でモヤモヤするんだろ。
視界に教室から運んできた大量のチョコが移る。
それだけでショボンってなってきた。

「ああやって学校で纏めて貰わないとチョコを渡そうとする奴等が1日中部屋に来るんだよ。だから、さっさと貰って優が起きるぐらいには帰ってこようって思ったの」

「えっ、そうだったの?」

「優にチョコ貰ってるところなんて見られたくないし…それなのに今日に限って早起きしてるなんて。いつも休みは起きるの遅いのに」


じゃあえーっと。
疾風は俺に見せたくなくてこっそり教室で貰ってたと。
んで貰い終わったら一緒にいてくれたと。
……そうだったんだ。
ホッとしたらモヤモヤがなくなった。
そうだよねっ。
俺の前でチョコ貰うって気ぃ遣うよねっ。
現に俺、誰からもチョコ貰ってないし。
疾風らしい優しさだ。
でもここで問題が。


「で?俺にチョコは?有栖川に渡したんだから勿論俺にもあるよな?」

ああああああああ!
疾風の笑顔がなんか黒いぃぃっ!
食べちゃった☆とかこのタイミングで言えないっ!
1つでも残ってたらっ…逆に失礼だよっ!
どうしよっどうしよ…

紙袋から疾風用に用意したチョコのラッピングに使ってたリボンがコンニチハしてる。
よし!
もうこれしかない!
引かれたらその時は泣こうっ!

紙袋からリボンを取り出して自分の首に巻いた。
リボン結びしてみたけど首元で作るの難しいなぁ。

「……優?」

イケメンはポカーンってしてもイケメンだよねっ。
羨ましいぞこのぉっ。
これ、俺がやっても気持ち悪いけどこれしかないんだよぉっ。


「お、俺を美味しく食べて?……なーんちゃってー」

やっちまったなぁあっ!
疾風ポカーンってしたままだよっ!
リアクションしてリアクション!
何でチョコ食べちゃったんだよ俺ぇぇっ!
なんて頭抱えてたら体が揺れて背中に柔らかい感触。
目に入るのは白い天井と疾風の笑顔。
あ、ウケたのかな?


「いただきます」

俺に馬乗りしてる疾風が律儀に両手合わせてる。
乗り切った…!
取り敢えず疾風の首に腕を回して素直にキスを受け入れた。




その後を覗く


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