「ねぇ……テレビ、出ない?」 テレビ出演なんてさほど珍しくもないことなのに、改まって訊いてくるには訳があるんだろう。 「お前と一緒に……か?」 「えっ!?違う違う///」 目を丸くして勢い良くブンブン首を横に振る吹雪の否定ぶりに、持ちかけられた出演話の怪しさをじわじわと感じながら、俺は更に問う。 「…で……どんな番組なんだ?」 えっとね………と目尻を下げてにっこり笑う吹雪のとろける表情から ゙おねだり゙のオーラを読み取ってしまった俺にノーと言う選択肢は……既に無い。 「こんばんは!『追跡サッカーFAN★スクープ』の時間です〜私、ディレクター兼司会の角馬圭太と…」 「アシスタントの とみながじゅんです〜」 「今回は夏休みスペシャルということで、人気コーナー『あの危険なツールは今!?』でエイリア石と神のアクアを特集……私角馬圭太も毎朝飲んで効果を検証してみました!!」 「さぁ…どんな効果が出たのでしょうか?……そして私も今日はエイリア石のピアスをつけています〜」 普段は録画番組らしいが 今回のスペシャルは生放送。 サッカー雑誌とのタイアップの不定期放送で……俺は次のコーナーの出番をヘアメイクや衣装係に格好を整えて貰いながらセットの裏でを待っていた。 そもそもこんなつもりの゙変装゙では無かったのだが。 気軽に芸名を名乗り役作りしているような感覚にはやはり違和感がある。 毒々しいメッシュ、煩わしい程のアクセサリー。そして派手なスーツにベルトとスカーフとブーツが次々とコーディネートされていくにつれ気も重くなる……。 「イシドさん、出番60秒前です」 俺は無言で頷いた。 『じゅんちゃんから拝み倒されちゃってさ……スペシャル番組の目玉にどうしても豪炎寺くんにイシドさん役で出演して欲しいって///』 ……という可愛い恋人の上目遣いに秒殺されて、俺はここで出演の覚悟を決めているのだが。 (ところで、じゅんちゃんって誰なんだ?) イシドシュウジの役目を終えてもうすぐ2年が経つというのに…… …全く……。 「ではっ、次はお待ちかね!……『あの大物は今!』のコーナーです!」 「今日はガルシルドさん、ヒデナカタさんの秘蔵VTRと現在のマル秘活動をスクープ!……そして、本日の目玉がもうお一方!!………元フィフスセクター聖帝・イシドシュウジさんが一夜限りの再登場!…特別にスタジオにお越し頂いています!!」 果たして今さらイシドシュウジがどんなポジションなのか不明だが スタジオには黄色い歓声が起こる。 「イシドさん、どうぞ――!」 スタジオの色めき立つ雰囲気に不釣り合いな険しい顔で登場する俺。 今更、無意味な役での立ち回りは億劫すぎる。 「わ〜///相変わらずクールでセクシー……惚れ惚れしますね///」 「そりゃそうでしょう、イシドさんは ゙サッカーFAN★゙調べ『サッカー界で抱かれたい男』で3年連続第一位に輝いているんですからね〜。いまだ衰えない人気をどう思われますか?」 「………ありがとうございます」 「ちなみに2013の結果はこちらです――ジャン☆」 フリップをチラッと見ると、 1位 イシドシュウジ 2位 亜風炉照美 3位 吹雪士郎 4位 エドガーバルチナス 5位 豪炎寺修也 ……って、1位と5位はダブルカウントだぞ! 「あっ、豪炎寺さんもランクインしてますね〜」 「……私は豪炎寺ではない」 っ…わざと振ったな……角馬。 心の奥で舌打ちしながらお決まりの言葉を返す。 しかも……゙俺の吹雪゙がこんな所にランクインしているのがもっと複雑だ。 まあ俺からすれば吹雪は ゙抱きたい男゙オンリーワンのナンバーワンだから土俵が違うが、な。 そんな思いを巡らせながらも俺は淡々とトークに相槌を打ち、ヒデのVTRにコメントしながら…番組は割とすんなり終盤を迎えた。 面倒だったが、こんなことで吹雪の顔が立つならお安い御用だ…と思いかけていた所へ、いきなりスポットが当たる―― 「さて!いよいよ最後の ゙トクベツ企画゙抱かれたい男★イシドシュウジどこんなこどしてみたい〜!!のコーナーです」 「読者アンケートの意見から、イシドさんにしてほしいこと ゙ベスト3゙を集計しましたぁ」 はぁ……………? ついていけない感に塗り潰されそうになる気持ちを必死で立て直しながら、眉間にシワを寄せないよう冷静な表情を保つ。 「まず、3位は〜………ジャン! ―――ヘリでデートぉ!」 「…………すみません。あれは私物ではないので」 「あはは///ですよね…さすがに」 「じゃ次、2位は〜……ジャジャン! ―――ひったくりから、シュートで助けてぇ!」 「………危険だから良い子は真似をしないように、な」 寄っているカメラ目線で思わず話しかける。 「ですよね〜サッカー少年の皆、気を付けようね〜。そして、1位は〜 ……ジャジャジャン!! ―――聖帝口調でプロポーズしてほしいっ///」 「……………?!」 「『あの記者会見みたいに』プロポーズされたい、なんて声も多いんですよ〜」 「はぁ………」 「『民法第●条により、君だけを私の元で管理する』……とかですかね。カッコいいですね〜」 は?―――カッコいいか? どう考えても胡散臭過ぎるだろう。 「さて、それでは特別セットを準備してますのでそちらで……プロポーズシーンを実際に見せて貰っちゃいましょう〜!」 は? まさか俺がやらせでプロポーズをするのか? しかも生放映で。 冗談もほどほどにしてくれ。 下手すれば吹雪から大目玉だ…… 俺は目眩のような頭痛を覚え 眉間を指で押さえた。 → ←ISHIFUBU top |