★ 2012/04/13 に全書き直し ※静臨 ※臨也は父親に虐待をされていたという捏造設定 残酷なヒト 俺は小学生の頃には既に、他人と「寝る」という事を知っていた。 原因は父親だ。 物心も付かない幼い頃――そう、精通すらしていなかった頃から俺は父親の玩具にされていた。 暴れて抵抗したのは最初の内だけだ。 暴れた所で簡単に捻じ伏せられてしまったし、暴れれば暴れる程に父親の「攻め」が酷くなる事に気付いた俺は、大人しく行為が終わるのを待つようになった。 いつか力が付いたら復讐をしてやると、心に強く決めていた筈なのに、成長と共に人並みに得た力を行使する事も無く、結局高校に上がってからも少しの間はこの関係が続いていた。 本気になれば振り払えるだろうに、迫られたら断れない。 恐らく俺は、幼少期の記憶から本能でこの男を恐れているのだろうけれど、自分が何かに怯えているなどとは認めたくなくて、ずっと父親とのこの関係が「好き」なのだと思い込んでいた。 けれど、出会ってしまった。 高校には、化物が居たんだ。 中学の頃から名前だけは知っていたけれど、一見すれば普通の男にしか見えない金髪のその男は、一瞬にして俺の心を奪っていった。 その日から、俺は余り家に寄り付かなくなった。 当然父親と接する時間が減り、俺は「好き」だと思い込んでいた行為から、気付けば遠ざかっていた。 この頃から俺はやっと「生きている」と実感出来るようになった。 毎日毎日命懸けで走る。楽しくて堪らない。 そいつは何をしても死ななくて、彼こそが俺の最高の玩具だと思った。 明日は何をしてやろうかと考えるだけで気が昂ぶって、もう俺の頭の中にはシズちゃん一人しか存在しなくなっていた。 そしてある日、ほんの出来心…だったと思う。俺はわざとシズちゃんに捕らわれてみた。 勿論この後逃げるつもりでいたし、その自信もあったからなのだが、予想外の事態になってしまった。 シズちゃんの手が俺の腕を掴んだ。 ただそれだけなのに、俺の身体が恐怖で硬直し、同時に俺のナカが酷く疼いた。 思い出してしまったからだ、父親とのあの忌まわしい記憶を――― 「やっ…」 小さく叫んだ言葉は、何も知らないシズちゃんには苛立ちの対象にしかならなかったようで、 「何か嫌だ、ふざけんな!」 と真っ直ぐな怒りをぶつけられた。 こんな日陰でも彼は眩しくて、暴力的なまでに健康的で、俺は俄かに嫉妬した。 俺は小さな頃からおぞましい虐待を受けていたというのに、この男はきっとこの世にそんな現実が存在している事すら知らないに違いない。 そうでなければ、こんなにも真っ直ぐに育つ訳が無い。 心底この男が憎いと思った。同時に俺の身体の熱も鎮めたい。 となれば、やるべき事は一つだけだ。 俺はシズちゃんの方へと向き直った。 相変わらず腕は凄い力で掴まれたままで、だからこそ俺の身体の疼きも治まる気配が無い。 「シズちゃん、君、童貞だろう?」 「・・・・・・・・・はっ?」 思い掛けない俺の質問に、シズちゃんの俺を掴む力が緩んだ。 普段であればこの隙に即逃げ出す所だけれど、今は別だ。これから俺が君を捕えるのだから。 俺は掴まれていない方の手で、シズちゃんの空いている手をやんわりと掴む。 シズちゃんの身体が僅かに震えた。流石本能で生きる男だ、無意識に俺の意図に気付いたのだろう。 でも逃がすつもりなんて無い。今から君も、俺と同じ場所に堕ちるんだよ。 「俺が捨てさせてあげるよ、君だって人並みにそういう事に興味くらいあるんだろう?」 「何、言って……」 「シズちゃんは、女の子を相手になんか出来ないもんね?」 俺の言葉に怒るとばかり思っていたシズちゃんは、意外にも悔しそうな、それとも悲しそうなと言うべきだろうか、そんな表情を浮かべただけでキレてはこなかった。 シズちゃんは俺の情報網を完全にナメている、いや、それ以前に俺の事をそこまで知らないのかもしれない。 俺はね、シズちゃん。君の過去を知っているんだ。君がその力で大切な女性を傷付けてしまった事も、その事で君が自分の力に酷く怯えている事も、みんな知っているんだよ。 「ねぇシズちゃん、今日から俺達の喧嘩の種類を一つ増やそうか」 「あぁ?種類って何だよ、手前が死ねばそれで終わりだろうが」 「物騒だなぁシズちゃんは。大丈夫、痛くなんかないさ。むしろ君は気持ち良くなれるし、実際にしてみれば文句なんて出ないと思うよ?」 ね?と言いながらシズちゃんを掴んでいた手を離し、その手で今度は股間に触れる。 シズちゃんはその事に本気で吃驚したようで、勢いを付けて俺から離れた。 「酷いな、シズちゃん。そんな風に避けられたら幾ら俺でも傷付くよ?」 「なっ、、離れんに決まってんだろ!何してんだ、手前!」 一瞬だけ触れたシズちゃんのそこは、当然だけれど何の反応も示していなかった。 この男が変化していく様を見るのは、さぞ面白い事だろう。 「何って…分からない?シようよ、シズちゃん」 「しようって…?何すんだ?」 「え?やだなぁ、早速言葉責め?シズちゃんてそんな趣味あったんだ、知らなかったな。するのは勿論セッ」 「言うな!」 「何それ、君が言えって言ったんだろ?」 シズちゃんの顔が赤い。 化物だの怪物だのと恐れられてるこの男の、こんな表情を見たのはこの世界に一体何人居るのだろうか。 きっと俺だけだろうと思うと、笑えてきて仕方が無い。 君が純粋だと知る程に、俺の憎しみが強くなるとも知らず、可哀相な男だ。 「ホテル行く?それともここでする?人通りも無いし、調度良いよね」 「手前となんか何もしねぇよ!」 そう言って漸く普段のようにキレ始めたシズちゃんに、俺は近付いて―――…… 「おい、落ちてんじゃねぇよ、俺がまだ終わってねえだろ」 低い声に呼ばれ、ぼんやりと意識が覚醒する。 目の前には金髪の男。 「ん、、シズ、ちゃん…?何で、サングラスなんて掛け・・・」 目に映ったシズちゃんが何だか大人っぽく見えるな、なんて思った所で、急速に意識が現実へと引き戻された。 あぁそうだ、もう俺達は高校生なんかじゃないんだ。 「夢、見てた…来神時代の、俺とシズちゃんが、初めて結ばれた日の…」 「結ばれたとか言うんじゃねぇよ、気色悪い」 「相変わらず酷いなぁ、俺が居なかったらシズちゃんは未だに童貞だったんだから、感謝してもらいたい位なんだけど?」 舌打ちの後にうぜぇという声が聞こえた。 どんな悪態を吐いた所でこの関係を止めないくせに、シズちゃんは全く素直じゃない。 「俺、どれくらい意識失ってたの?」 「数分、てとこか?俺が直ぐ起こしたからな」 「・・・そう、っ!あ、あぁっ、やぁ……シズ、、シズ、ちゃ、俺さっきイッた、ばっか!」 「そうだよ、手前だけ勝手に達きやがって、俺はまだなんだよ!ちっとは我慢しろっつったのによぉ」 唐突に動き出したシズちゃんに、俺は簡単に翻弄される。 これは嬉しい誤算と言うべき所なのか悩むけれど、俺にとってシズちゃんとの身体の相性は最高だった。 気持ち良いのは大いに結構だけれど、俺は技巧なんてどうでも良かったんだ。 シズちゃんなら平気で俺に酷い事をしてくれると思って、ただ利用するつもりでいたというのに、している時だけシズちゃんはとても優しくなる。 今日もそれは変わらない。これこそ誤算だ。 じゅぶじゅぶっと卑猥な音がして、あぁ今日だけでもう何回したんだっけなと思い出そうと試みるも、浮かぶのはシズちゃんの心配そうな顔ばかりだ。 俺はそんな事、望んでなんかいないんだよ。 「シズ、ちゃ・・やだ、もっと、酷く、シて……?そんな、、じゃ、感じな、あっ、あ、あ、あぁ」 「嘘吐いてんじゃねぇよ、充分感じてんだろ?いい加減それ言うの止めろ」 「嘘じゃ、無い…嘘じゃないよ、シズちゃん、酷くして、、もっと、痛くしてよ」 頼んでも、シズちゃんの動きは変わらない。 だから俺は何度も頼む。何度も何度も。そうして最後はシズちゃんに「泣くな」と言われて抱き締められるんだ。 困ったな、俺はまた泣いていたのか。いつも途中から意識が混濁してしまって、自分がどうなっているかが分からなくなる。 自分の吐く息が荒い。下半身がさっきよりもベトベトする。 どうやら俺は、知らぬ間に達していたらしい。折角身体の相性が良いというのに、無意識にイクなんて勿体無かったなと思う。 「シズちゃん、もう一回」 「ダメだ」 「何で?まだ出来るだろ?シズちゃんの、まだ硬いじゃん…出しときなよ、ね?」 「終わりったら終わりなんだよ、手前はもう休め」 そう言ってシズちゃんは煙草に火を点けてしまった。 煙草を吸い始めたら、シズちゃんはそれ以上は本当にもう何もしてくれない。 けれど煙草の煙が俺に掛らないように座り位置をずらしてくれる。 ふざけるな化物め。 化物は化物らしく、ただ本能のままに動けば良いんだよ。 俺に気を遣ったり優しくしたりするな。 高校時代の、あの時からこの男はそうだった。 シズちゃんが俺と一緒に素直にホテルなんて行く訳が無くて、だから俺は無理矢理シズちゃんを襲う事にした。 襲うと言っても突っ込まれるのは俺の方だ。俺がシズちゃんに…なんて、想像も出来ない。 シズちゃんの反撃は凄かった。 全く遠慮容赦無く俺を殴り付けてきたし、その所為で何度か俺は意識を失いそうになった。 それでも諦めなかった俺の執念が勝った。 隠し持っていたナイフでシズちゃんのベルトを切り付け、ズボンが落ちそうになった時、シズちゃんに隙が出来た。 その一瞬の好機を俺が逃す筈も無い。 脱げ掛けのズボンを下着毎引き下ろして、見えたものにしゃぶり付く。 当然シズちゃんも最初は俺を引き剥がそうと必死に抵抗していたけれど、とうとう快感に負けたらしい。 俺の髪の毛を引き抜かんばかりに引っ張っていたシズちゃんの手は、いつしか俺の頭を包むように押さえていた。 それよりも、俺の口の中に出した後のシズちゃんの反応が楽しみで仕方なかった。 この男は絶対にキレる。 こんな現実を認めたく無くて、必ず俺を悪者にして、それはそれは酷く俺を扱うに違いないのだ。 あぁ楽しみだ、その痛みで俺の記憶を上書きしてくれ。 あの父親の事など、もう思い出せないように――― 「ん、っふぁ・・」 随分と勢いの良い白濁が、俺の口内を満たした。全部飲み切れるか心配な量だ。 いやらしく飲み込んで見せるつもりだったけれど、そうも言ってられない。ごくごくっと無理矢理嚥下してからシズちゃんを見上げ、見せ付けるように舌をちろりと出して、唇を舐め上げた。 シズちゃんの息が荒い。 さぁもう直ぐキレるぞ、そう思ったら我慢など出来なくて、俺は望みを口にした。 「酷くして、シズちゃん」 シズちゃんは結局、俺の願いを聞いてくれなかった。 俺が望むままに抱いてはくれたけれど、ぎこちなくも丁寧で、壊れ物を扱うように優しく優しく、凡そシズちゃんとは思えないようなやり方だった―――俺はぼんやりと、煙草を吸うシズちゃんの背中を見ながら、夢で見た続きを思い出していた。 「ねぇ、シズちゃん」 「何だよ」 「俺は、シズちゃんの事、大嫌いだよ」 「・・・俺もだ」 「だから、キスして?」 「あぁ?何言ってんだ手前は、頭湧いてんのか?」 ふぅーっと煙を吐き出す息の音がして、シズちゃんへと視線を向ければその整った顔が近付いてきた。 「気持ち悪ぃんだよ、ノミ蟲が」 そう言って、キスをされた。 どこもかしこも硬いシズちゃんも、唇だけは柔らかいのだから本当に不思議だ。 舌を仕掛ければ、簡単に絡め取られてキスはどんどん深くなる。 ねぇシズちゃん、あの日、どうして君は俺に優しくしたんだ。 俺は何もかも忘れる程に、酷くされたかったんだよ。あんな場で、優しくされたら――― 君を、愛してしまうじゃないか。 人間しか愛さない筈だったのに、たった一人の化け物を愛してしまったが故に、もう人間の方をこそ愛せなくなってしまいそうだ。 俺の人生を、人格を、狂わせたのは君なんだシズちゃん。 責任を取って、君も俺を愛してくれよ。 嗚呼、けれどシズちゃんが優しくするのは、今シズちゃんが見ているのは、目の前に居る俺ではなくて、父親の虐待に耐えていた可哀相な過去の俺なんだ。 心優しい化物は、俺の求めるものにいつまでも気付かない。 優しくして、 大事にして、 そのくせ俺を愛さない君は、 何て、 残酷な人なんだ――― 残酷なヒト 2012.04.13 改稿 2011.12.15 初出 灰谷 不協和音様提出作品 |