そして、対して興味も持たなかったはずの新しい入居者に、初対面からうどんを頂いてしまったわけである。

「…何故うどん?」
「引っ越し蕎麦って言うだろ。引っ越しってわけでもないから、うどん」
「俺貰っても入院中だし食えなくない?」
「…あ」

第一印象は、変なやつ。
初対面でこれだと誰でも抱く当然の感想だけれど。
そいつは何が不満なのか、仏頂面をしてはいるけれどもなかなかに綺麗な顔をしていた。茶より黒の方が多いダークブラウンの髪は、長すぎず短すぎずの爽やかな髪型に纏められている。その髪色と合う真っ黒な瞳は黒曜石のようで、なんでも映しそうにみえた。目付きが悪いのが難点か。
かっこいい感じだけど、特別身長が高いわけでもなく、その辺を歩いてても普通に溶け込んで目立たない程度。
ぞんざいな言葉遣いから、もしや浪人とかの理由で年上なのだろうか、と疑問を抱いた。

「すいません、年齢聞いてもいいですか?」
「16だけど」
「えっ」

年下かよ…。

「どうした?」
「ごめん、俺17だ」
「…えっ」

今度は相手が驚く番だった。
俺そんなに若く見えるかなあ、と悩みそう。

「…すいません、タメ口きいて…同い年くらいだと思った…」
「あぁいや平気…タメでもいいよ?」
「いやなんか、そういうわけにも…」
「そう?」

完全に打ちひしがれているので、これ以上突っ込まないでおいてやる。
なんだか、思い込みで行動していく節があるようだ。
面白いやつ。暇潰し相手には絶大な効果を示しそうだ、とそっと唇を歪めた。




...




それから互いに自己紹介をしてわかったこと。
新規入居者の本名は甲斐田時雨(かいだときあめ)。今年高校に入ったというから高1らしい。
俺は高2なのかと聞かれたけれど、残念ながら俺は高校には行っていない。行っていれば今は高3。今年度の誕生日はまだ来ない。

「2つ上かよ…」
「不都合でも?」
「いや、そういうわけじゃないでんすけど…なんか2個上って一番力の差を感じる…」
「そういうもん?」
「そういうもんです。あ、じゃあ中学はどこでした?この辺?」
「あー、鮎川北中。わかる?」
「わかるというか、マジすか」
「マジよー?」
「…俺も北中だったんですけど」
「え」

一年間は同じ学校にいたということか…。
小さな偶然が少し、嬉しい。
だが偶然はそれだけではなかった。
甲斐田の所属していた部活は陸上部。俺は運動出来ないし、籍を置いているだけの幽霊部員の中の一人ではあったものの、同じ陸上部に所属していた。部活は一度しか行かなかったから、関わりはなかっただろうが。
それでも共通点が嬉しい。
最初は暇潰しになる程度にしか考えていなかった新規入居者の存在が、遊び相手くらいに昇格した。
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