「はい」

不意に目の前に差し出された、うどんが入っているらしい箱から視線を上げる。

「暫く隣、よろしくお願いします」

仏頂面で俺を見下ろす黒い目には、蒼い空と白い雲が映っていた。





...





「は、新しい入居者?」
「うん、大洞さんに聞いた」

読んでいた5ヶ月前の雑誌から顔をあげる。
俺の向かいのベッドに入院中の山下さんは、薄幸そうな笑みを浮かべて肯定の意を示した。

「大洞さん曰く、高校生の男の子だって。良かったね、同年代の子が入って」
「はあ…いやまあ俺は山下さんと話すのも楽しいですよ?」
「はは、それは嬉しいな。でもおじさんよりは若い子同士の方が話も弾むだろう」
「山下さんも話題合う方ですって。だって岩河さんと比べりゃ…」
「岩河くんはまた別の理由な気がするけどね」

二人で目を合わせて朗らかに笑う。
岩河さんは35歳前後の男性で、いつも院内を放浪して女性看護師相手に、過去のあれこれに対する愚痴を零す。看護師たちにあしらわれるとここに戻ってきて、逃げられない俺たちに愚痴を聞かせるから、正直めんどい。そんなでまともに話も出来ていないため、俺は未だにあの人の入院理由をよく知らない。
ちなみに山下さんは胃炎だかなんだか、胃を痛めたらしい。仕事のストレス溜まりそうだもんなあ。
でもいつも奥さんと
娘さんが来て文句言いつつも世話してくれているから、いい家庭なんだろう。そこは羨ましい。

それにしても新しい入居者か…。10ヶ月くらいずっと3人だったから久しぶりのお隣さんだ。10ヶ月前に去ったのは中学生の子だったけれど、その子も風邪をこじらせただけで一週間で退院したから、ほとんど関わりも持たなかった。

「まぁ、俺には関係ないかな…」

どうせ前々から考えていても仕方ないし。
ぶっつけ本番が俺の生き方だから、深く考えるのはやめた。
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