カラオケの予定とか、サークルの話とかを、広く浅い関係の友人たちとしているといつも視界の端に映る、彼。前でも後ろでもいいからとにかく教室の隅に定位置を決め、一人難しそうな本を読んでいる。いくつか同じ講義をとっているようだから、同じ学部生なのだろう。艶やかに黒く長い前髪の向こうには熱を持たない大きな冷たい目がある。
何故か目が彼を探してしまう。一人なのに輪から外れたことで居心地悪そうなわけでもない。むしろ背筋を伸ばしてしっかり授業を受け、自分に必要なものだけを選び取っている姿は堂々としていた。そのために余計目につくのだ。周りに馴染まない彼は。
それでも気になるだけ。名前も学年も知らずに関わりなく卒業していくのだと思い込んでいたのに。

「家政学部二年の、尾坂です」

初めて声、聴いた。少し低めの落ち着いた声音。年上で、学部も違う。瞬きも忘れ固まっているのを見て、訝しげに眉を寄せる。

「ああ、そう、俺は最上、最上千傘(ちかさ)。地域社会学部の一年です」

まくしたてるように言い切ると、小さく頷かれる。少しも笑わないのに優しくなった空気に胸を撫で下ろす。
はじめましての挨拶は、地域社会学部の授業内、教授にペアを作るよう言われたからだった。いつも通り隅に座り真面目に講義を受ける彼、尾坂さんと、サボって携帯を弄るために一番後ろをキープしただけの俺。引け目を感じて真面目に講義を聞いていればよかったと反省しつつも、彼に近い席に座ったことに内心でガッツポーズする。
既に教授の方へ向いている視線。あれがさっきまで自分に向けられていたのだと思うと言い知れない快感が背筋を駆け上った。普段の視線の冷たさは警戒や威嚇なのか。今しがたの目はちゃんと温かかった。一歩近くへ寄れた気がして、優越感。
隣の彼に倣って背筋を伸ばす。ちらりと横目での視線を受け流し、教授の説明も聞き流し。
面白い暇つぶしを見つけた。三週ほどペアは崩さないらしい。その間に、警戒心の強い猫のようなこの人を懐柔してやろう。
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