愛されなくても、このまま隣にいられたらそれでいい。あいつに彼女が出来てもそれで幸せなら応援するだけ。
そう、これはちゃんと最初から諦めた恋のはずだった。

「俺、理都先輩と付き合うことになった」

だらしなく緩み切った頬で小枝が報告して来た時、最初は意味が理解出来なかった。
付き合う?理都先輩と?理都先輩は男だろう?お前はノンケじゃなかったのか?
言っちゃった、と笑う小枝の声にようやく思考が動き出す。そして悟った、予想とは違う形だが俺は失恋したんだと。

「おめ、でとう」
「へへ、さんきゅー!」

それだけ言うので精一杯だった。諦めたい俺と諦めたくない俺がごちゃごちゃになって、悲しいのか何なのかよくわからなかった。



気がつけば屋上にいた。あの後どう小枝と別れたのか、何を思ってここに来たのかもよく覚えていない。マンガみたいだ、と妙に他人を装う頭で思う。
夏真っ盛りの空は放課後だというのに陰る兆しもない。給水タンクの影にいても汗が全身を伝い流れていく。遠くから聞こえる運動部の声を蝉の大合唱が塗りつぶす。
これからどうしようか。
いずれ失恋するとはわかっていたけど、案外早かったな。違う、そこはいい。問題は別のことで。
小枝の相手が男だということだ。俺がゲイだと言った時の反応も普段の発言も普通に女の子が好きな態度だったから、男となんて無理だと高を括っていた。だからこそ俺の想いは迷惑だろうとずっとしまっておいたのに。
だったら告白していれば今付き合えてたのかも。なんて不毛な思考回路。
理都さんとは俺も仲良くしてるし、俺が何かしたら二人の邪魔になるだけ。これからも俺の好きは押し殺し続けなくてはいけない。
俺は、好きを、絶対に隠し通す。
ともすれば二人を呪ってしまいそうになる自分に言い聞かせる。彼らの幸せを邪魔してはいけないし、したくもない、はず。
まだ日は高い。今日はもう週末だし暑いから飲んで帰るサラリーマンも多いだろう。誰か適当に捕まえて相手させよう。出来たら思い切り下手な奴がいい。気持ち悪くて痛いだけの性交で泣かされたい。自分をぐちゃぐちゃに殺してほしい。
そういえばまだ泣いてないな。心と体が切り離されたかのような、自分と世界が切り離されたかのような不足感。一つだけ色をなくしてしまったみたいだ。
汗でシミのできた屋上を立ち去る。売りの前に町でもぶらつこう。
大切に箱に鍵を掛け仕舞った恋心に、まだしばらくはさよならを言えそうにない。
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