「麻季くん…?」
「あれっ、奏乃じゃん。久しぶり」

自販機を見つめて何を買おうか思案していたら、目の端に紺色の癖毛が揺れて声をかけられた。
不定期に会うことはあるけど、いつもは迷うため看護師に連れられて病室に会いにくるから、病室以外で会うとは思っていなかった。

「久しぶりだねー、いつ以来かな?」
「2週間前くらい以来じゃないっけ。今日はまた従兄さんのお見舞い?」
「そうそう。僕ここまで学校から2駅あるから地味に面倒なんだけどねー」
「大変だな。ご苦労さまです」
「いえいえありがとうございます」

軽い茶番みたいにぺこりと頭を下げあって笑う。奏乃は行動全般に独特のリズムを持っていて、会うたびに前と同じだと感じて安心させられる。
会話しながらしばらく悩んだ末に自販機のコーンスープとココアのボタンを押した。ガコンッ、と出てきた熱い缶を取り出し、「どっちがいい?」と尋ねる。

「どっちって、いやそんなの悪いし」
「最初会ったときの道案内のお礼だとかで、俺ばっか色々もらっちゃってるからいつか返そうと思ってたんだよね。ちょうどいいから今もらってよ」
「えー、でも…」
「あっ、もしかしてどっちも無理だったりする?」
「そんなことはないけど」
「じゃあ持ってって」

ずい、と半ば無理矢理差し出すと奏乃は逡巡してから礼を言いつつココアを手にとった。

「甘い方とるって、なんか女子らしいな」
「一応僕だって女の子だからね」
「うん知ってる、かわいいもん」
「……それはどう受け取ればいいのかな?」
「そのままどうぞ」
「…ありがと?」

多少挙動不審になった奏乃を笑うとジト目で睨みつけられた。小さいから上目遣い混じりで全く怖くないんだけど。
手元に残ったコーンスープのプルタブを引きぬるい液体を口に含む。いかにもな人口的な味がするけれど、そういうのは嫌いじゃない。奏乃は息を吹きながらココアを飲んでいた。

「猫舌なの?」
「猫舌ってほどでもないよ、あんまり熱いの得意じゃないだけ」
「自販機の缶に息吹きかけてるのって結構な猫舌なんじゃないかな…」

やっぱりどこか変な奴だ。コーンスープを啜りながらそういえば、と思い出す。

「なあ、従兄さんのとこ行くんじゃないの?」
「あっ忘れてた」
「案内しようか?まだ迷うんだろ」
「それはこの病院が広すぎるのがいけないんだって。もし暇なら病室までよろしくしたいな」
「おっけーおっけー」

安請け合いして近くのエレベーターへ歩き出す。隣でひょこひょこ揺れる髪の毛が小動物みたいでかわいい。揺れているのをぎゅっと握ると手をはたかれた。

「じゃあ今日もありがとね。あとココア、ごちそうさま」
「どーいたしまして。またな」
「うん、ばいばい」

従兄さんの病室前まで誘導して軽く挨拶をして別れる。廊下を曲がるとすぐに奏乃の姿は見えなくなった。ふっと息を漏らし、口元を綻ばせる。

「次はいつ来るかなー…」

退屈な入院生活の中でたまの彼女との出会いを楽しみにしているのは、内緒だ。







*たかなしさんちの奏乃ちゃん、お借りしました
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