肉人形の独白

年端もゆかぬ子供相手に淫臭を匂わせる。
その行為に興奮を覚えなかったと言えば嘘になる。
カルトの好奇に満ちた眼差しに気付かないふりをしてフィンクスを誘った。
カルトが何処かでどうやってか聞き耳を立てているのを知っていながら、素知らぬ顔で睦言を交わし、喘ぎ、快楽に酔いしれた。
悶々と自慰に耽るカルトを想像しながらフィンクスとのセックスを愉しんだ。
顔を合わせれば何ともばつの悪そうな表情で目を反らす。そんなカルトを心の中で嘲笑っていた。

もしもこいつに自分の恥態を見せてやったら?発情した雌猫みたいに尻を高く上げて。よがり声を上げて。腹の奥を犯されて痙攣しながら果てる姿を見せつけてやったらどんな顔をするだろう。
まぁ、土下座でもして頼み込んでくれば一度くらい慈悲をくれてやらなくもないが――無駄にすかした小僧のことだ。おそらくそれはないだろう。
勝手に聞き耳でも何でも立てていればいい。念能力を多少嗜んだところで所詮は子供だ。もし間違いを起こそうとしても簡単に返り討ちにできる。

そうタカをくくっていたら、この体たらくだ。
自宅へ連れ込まれ、さんざん凌辱され、挙げ句に性別まで変えて孕まされた。
なんと無様と思う反面それを喜んでいる己がいる。
カルトを愛しカルトに尽くす。
カルトの喜びこそ己の喜び。
カルトの幸せこそ己の幸せ。
カルトが望むならばこの身も、心も、命さえくれてやる。
自らの血肉で彼の子を育むことができる。甘美な栄誉だ。この上ない悦びだ。
胎児を愛しく思う一方、この感情が外から植え付けられたものであることも分かっていた。
いまの自分はイルミに操作されている。カルトを愛し服従するよう仕向けられた肉人形と化している。それさえ解除させれば、この紛い物の気持ちは忽ち消え失せるだろう。

(悍ましい)
兄の能力に頼って従えた他人を我が物顔で犯し尽くす。
能力も魅力も足りないくせに自尊心と支配欲だけは一丁前の不気味な子供なぞ、洗脳でもされなければ誰が愛するものか。
しかし逆に言えば、そうでもしなければ相手にされないことを分かっているのだ。だからこうして人を洗脳監禁している。色々と足りないなりにその辺は理解しているわけだ。大した自己分析力だ。他に褒めるべき所は何もないがそこだけは評価してやってもいい。

カルトと離れている間は、彼への憎悪に頭が煮え滾って何もかも滅茶苦茶にしてやりたくなる。
カルトに会うと、その憎悪が一瞬にして愛情に変わってしまう。彼のためなら何だってできる。自分の全てを彼に捧げたいとさえ思う。
最近ではどちらが本心か分からなくなってきた。カルトを愛しているのか。憎んでいるのか。

(フィンクス……)
蜘蛛やフィンクスへの想いがなくなったわけではない。
が、それさえ上書きされてなくなってしまうような気がする。
フィンクス。彼に逢いたい。話がしたい。声を聞きたい。抱き締められたい。体温を感じたい。
だが会ってどうする?どんな顔をすればいい?この事態をどう弁明すればいいのか。彼はこの現状を許してくれるのか。

胃の奥から酸っぱいものが込み上げてくる。身籠ってから吐き気を覚えない日はない。ふいに憎しみが湧いた。人の体に根を下ろし、のうのうと眠り育つ赤ん坊の姿が脳裏に浮かんだ。掻き出し叩き潰し踏みにじってやりたい衝動に駆られた。できよう筈がない。それでも自分の子で、何よりカルトの子なのだ。
憎悪と愛が拮抗する。カルトといる間は愛が勝り、離れれば憎しみが嵩を増す。その繰り返しだ。精神が蝕まれてゆく。自分が自分でなくなってしまう。

(助けて)
独りで――正しくは腹の子と二人きりでいると、どうしようもなく不安になる。
カルトに救いを求めて縋り付きたくなる気持ちと、父子ともに八つ裂きにしてやりたい衝動が同居している。
こぽこぽと子宮が泡立つような気配がする。此方の都合などお構いなしに胎児は育つ。最近では胎動さえ感じるようになった。
体は怠くて仕方ないのに心は昂って仕方がない。死んだら楽になる?馬鹿らしい。何故自分があんな奴らのために死なねばならない。
いずれ自分は赤子を産み落とす。そうすれば多少も状況が変わる。カルトの寵愛が赤子に移って、自分はあっさり放り出されるかもしれない。

戸を叩く音がする。カルトだ。
あんなに恨めしく思っていながら、こうして姿を見ると胸が弾み、下腹部がずくんと甘く疼く。
この愛憎も、執着も、やがて生まれてくる赤子に引き継がせると思えば気楽なものだ。
一方で、カルトを赤子に奪われるのを恐れている節もある。

堂々巡りだ。支離滅裂だ。何もかもが矛盾している。
考えるのが面倒くさくなって彼に身を任せる。
快楽の虜になっている間だけは、余計なことを考えずに済む。

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