「ジェイドー!」
「ジェイドに触るな!」
真っ白な世界。
「煩ぇ、鼻垂れが」
「お兄ちゃん、止めなくていいの…?」
「放っておけばいいさ」
大好きな世界。
王子だとかそんなこと関係無く付き合って、遊べる奴等が居た世界。
ビシャリ、
それが、突如深紅に染まって終わりを告げた。
「え?」
頬に手を滑らせれば真っ赤に染まる手。鼻を突く鉄錆の臭い。
赤だけに支配された世界には何色にも染まらぬジェイドがいて。
「…なんだ、もう気付いたのか」
子供の手に収まる小さな短刀と顔を、髪を、手を血に染め上げた彼が、とてもとても綺麗に笑っている。
――綺麗だ、けど何かが違う…
何が違うのか、と具体的な答を要されると幼い頭では何も思い付かないまま思考を停止してしまうだろう。
ただ、笑顔が違う。
いつものジェイドなら、あんな笑い方はしない。それ以前にあいつは殆ど笑わない奴だったんだから。
なのに、何故…?
「気付かれないようにしてたつもりなんだけど…ばれたならしょうがない。お前の命を狙うこいつらが悪いわけだし」
地面に転がるは無数の惨殺死体。生きている内に手を落とされ、足を落とされ、最大の苦痛を味わい無惨に死んでいった哀れな暗殺者達。
ジェイドが笑いながら蹴ったのは、首を掻き切られた死体だった。
譜眼の施された緋が、酷く歪んだ色に見えて、凄く恐怖を感じたのを覚えている。
――あれから数十年の時を経た今、
カツ、コツと硬質な音をたてて近づいてくるジェイドを玉座に座ったピオニーは濁った青い目で見るとも無しに見ていた。
「やっと、ですね」
ニッコリと笑ったジェイドはその辺に転がった王だった男の傍らに転がる王冠を掬うように拾い、白を基調とした皇帝の服を身に纏う彼にそっと被せた。
「やはり貴方にしか似合わない」
死屍累々、血みどろの謁見の間で、唯一赤く染まっていない2人はある種異様でもある。
ジェイドはピオニーを前に恭しく膝を付くと力無く垂れ下がる手を掴み、キスを一つ落として、
「この世界は貴方だけのものだ。作りましょう、貴方だけに優しい国を、貴方が望んだ優しい世界を」
忠誠を誓ってみせた。
「バカな人達だ、何もしなければ此処で命が燃え尽きることなどなかったのに」
暴君皇帝の恐怖政治がひかれているというマルクトの今、兵の士気は格段に下がっているだろう、と我等キムラスカ王国は圧倒的な兵力でかかったのであるに、この惨状は一体どういうことだ。
目の前には一人、ただ一人の軍人が立っているだけの筈なのに我々は大敗を喫する結果を招いた。大敗する理由など皆無だった筈だ。
現に、マルクト帝国は――
「全く、あの人に剣を向けるだなんて…良いでしょう、お望み通り後悔させて差し上げます」
コンタミネーション現象を用い、表皮から出現した槍を振り上げた――
後の人は語った、まさしく阿鼻叫喚、そう表現するがふさわしい、と。
そして、―――
あぁ、狂った人形師はどんな世界を築くのか
(貴方の御望みのままに)
End.
▽後書き
燈籠先輩との初合作なのでしたー。
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