聖透



ぺた、と首に聖の手が触る。
相変わらず冷たい手。最初に触られたのはいつだったか。

「聖?」

呼び掛ければ、緩く笑まれても手は離れない。
ちょっと喉の圧迫のような物を感じながら聖を見ている。何なんだろうなこの微妙な雰囲気。
仕方なく窓に視線を投げて片耳に掛けたイヤホンを外した。

「透、何か喋ってー」
「ああ?」
「喋って」

相変わらず手は離さないまま、むしろさっきより首を全体的に押さえるような聖に苛立ちながら手首を掴む。
それでも離さない。

「…何でこんな事してんだ、目立つ」
「ね、透」

無視かこいつ。
いつもと様子が違う聖を睨みつけながら先を待つ。いつも通りの笑み。へらへらヘラヘラ。

「首、絞めていい?」

ああ、こいつは馬鹿なんだ。

「なんで」
「首ってさ、触ってると生きてるって分かるよねー。鼓動は分かるし喋ってると震えるし」

それは、俺を殺したいって事か?
思わず聖の手首を掴む手に力を篭めてしまう。圧迫されているからか、耳の奥に心臓があるみたいにバクバク聞こえる。
ざわざわする背筋に思考が溶ける。

「なんて、ねー」
「ぁ…、」

聖の手が離れ、すぅと空気が楽に喉を行き交いする。
何だかずっと息を止めていたみたいだ。
聖を見れば、俺の首を掴んでいた手を何度か握ったり開いたりを繰り返すのを見て満足げに笑っている。
耳の奥がキンキンと鳴って、ようやく深く息をついた。
聖に呆れた訳じゃなく、俺に呆れて。

「どうかした透」
「…何でもない」

そのまま絞めて欲しかった。
息が出来なくなっても、心臓が痛いほど鳴っても、絞めて欲しかった。聖に。
もうダメだ、俺は。

「絞めて欲しかった?」
「…あー、かもなー」

冗談みたいに本音をぼかして伝えるとそれはそれは楽しそうに聖が笑い、それはそれは愛おしそうに俺を見た。

「そういう透は好きだなー」

今度首を撫でただけだったが、俺はもう思考が真っ白に焼き切れて、ただ本能的に聖の笑顔を網膜に焼き付けた。




絞めてせめて、僕しかみないで僕にしか生命活動を見せないで




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