冠(晶)+陽鞠



かちゃ、と皿がぶつかる音。コトコトと音を立てながら出来ていく味噌汁。かさ、と鳴るチラシにクーポン。
全部アイツが立てる音。

「陽鞠」
「なぁに、冠ちゃん」

長い髪を結い、ニッコリと女の子らしく笑う妹にバクと一つ、心臓が鳴った。決して恋愛の意味では無く、ただギクリと言う身体の固まりを心臓も表したようなソレ。

「お前が死にかかる度、目を開けなければと」
「…うん」
「そうすれば晶馬は俺だけの為に頑張るだろ」

すぅ、と笑顔を消して、真面目に最低な兄の懺悔を聞く妹に、本当に似ていると思ってしまう。青い髪の、片割れに。
全くの別の性格で、全くの別の容姿で生まれた俺達。
ただ俺だけが酷く汚れている衝動と感情で片割れを見ている。

「アイツが陽鞠を見る時だけが幸せそうなんだ」
「そうかな?」
「その度、壊したくなるよ全部」

しばらくの沈黙の後、妹は重く口を開け、晶ちゃんも?と聞いてきた。その目は何を映すでもなく、ただ虚ろと言う訳でも無い。何かを見ている。見えないだけで見ている。

「そうだなぁ…」
「ねぇ冠ちゃん、気付いてる?」
「何が?」
「気付いてないのね、冠ちゃんより解りやすいよ」
「だから…」

妹が、酷く大人びた笑顔で口に指を置く。言外に静かにと示され、通りに口をつぐめば、妹はヨシヨシと頭を撫でてきた。

「私はね、二人とも好き、大好き。だから二人とも幸せにならなきゃよ」
「俺達には罰がある」
「それでも、二人ともよ」

あっさりと、何でも無い様な顔で二人ともと言う。笑いながら、幸せそうに。
気付いてないなら気付いてと陽鞠はからかう様に笑って言った。

「冠ちゃんが私を見る時の晶ちゃんを、見てあげて?」

仕方ないなぁと母親の様な笑顔でくすりと笑う妹を見れば、玄関からガララと戸を開ける音が家に響いた。

「ただいまー、陽鞠、兄貴」
「お帰り晶ちゃん!」

ひらりとスカートを揺らして玄関に向かう妹に、底が知れない恐怖にも似た感情を感じた。
心を奥底まで覗かれる恐怖と違和感。

「晶馬、も…?」

呟いた声に応える人はいない。




堪え難い重さ




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