折紙+モブ
※別に意味は無いしオチも無い



ダンッと床を蹴り、イワンは目の前に立つ男目掛けて鋭く蹴りを放つ。ダスンッと鈍い音を立てて倒れ、苦しげに呻く男に休む暇を与えず首根っこを掴み、床に押さえ付けた。
顔の半分が床と引っ付けられた男の眼前スレスレに、タトンッと黒く光る刃物が深く突き刺さる。普通に落としたにしては深く刺さっているその刃物の鋭さにギクリと体を固め、恐る恐るといった感じでイワンを見上げた。
男はただの強盗だった。いや、強盗にただも何も無いが、男はあくまでただの強盗だったのだ。

(なん、何で、ただ、おど、おどそうと…!)

金に困り、突き詰められた果ての結論から男はただ、強盗をしようと決意したが、そんな理由で強盗になった男に人を殺す事まで覚悟出来るはずがない。
男はただ気弱そうで一人暮らしの男、−−イワンに目を付けたのだ。あいつなら脅せば金を出しそうだと、関わった事も無いイワンに、何故か確固たる確信を持っていた。

そして男は間違える。ただの一人暮らし、ただの気弱な男、ただの曖昧な確信。

「か、金を出せ!」

チャイムを鳴らし、開口一番にそう言った。家庭用包丁を震える手に持ち、震える声で自分自身を奮い立たせる様に。
過度の緊張によって歪んだ顔は笑顔なのか恐怖なのか判断できない。ヒクリと口の端が動いている為に本人は笑っている気なのだろう。

「………はぁ」

イワンは寝起きなのか、黒のタンクトップに緩いズボンを七分まで折った恰好でいた。
そこで男はちょっとした違和感に気付く。何故恐れない、と。
例えば寝起きであれ、刃物を見せた変な男が居れば目も覚めるだろう。
酷く寝起きが悪いのだ、と男勝手に思い込む。
そこで男ははたと気付く。一人暮らしにしてはやけに広い部屋ではないか。日本風に改装された部屋は廊下が長く、曲がり角がある。ただただ広い。
男は危機を感じる。この目の前の奴は一人暮らしでは無いのでは、と。
だが男は決定的な事には気付かないままだった。
目の前のイワンが、眠気が覚めた今なお、自分に恐怖していないと。

とりあえず男は強引に部屋に押し入り、金目の物はと探す。
そして男はイワンの反撃に会う。

「なっ、っがぁっっっっ−−−!」
「あ、腕外しちゃった」
「−−−っ!っっ!」

痛みが直で脳に伝わり染み渡る。ばぎ、と嫌な音が体の内から聞こえ、男の目から生理的な涙が溢れた。
「折れてない折れてない」と笑うイワンの声など聞こえず、男は自問自答を繰り返す。

何だ、何だこれ!誰だよコイツなら平気って、俺だけど、だけどこんな、こんな奴だなんて知らなかった!なんでこんな、意味が分からない、いや分かるのか?いや分からない!俺は、なんで、俺が何をしたって言うんだよ!強盗しただけじゃないか!?

そこで、パンッと鼓膜を破る目的の平手が耳に打ち付けられる。ビリビリと痛む耳に男の意識はまたイワンに向けられ、腕の痛みと共に現実味が帰ってくる。

「あ、誤解しないで下さい。別に拷問しようとかでなく、ちょっとした頼み事ですよ」
「あが、が、ぐっ…!?」
「忘れてください」

強盗に頼み事。第三者が居れば馬鹿だ何だ、頭が可笑しいと言ったかもしれないが、幸か不幸か第三者はまだいなかった。
男は腕の痛みにもがきながらイワンの言葉をかみ砕いて飲み込んだ。
忘れてろとは、何を

「僕が貴方に今した事全部忘れて刑務所に入ってください。大丈夫です、取り調べなんてありません。貴方はただ自分の罪の分を精彩して僕を忘れれば良いんです。貴方は何もされていない。貴方は忘れる。」
「ね?簡単でしょう?」

暫くして黒服のガタイの良い大人が5人、男を抱えて去っていた。後は何も無かった空間が残される。
そしてがらりと扉が開き、仲間の面々がイワンにおはようと眠そうに声を掛けた。

「布団って初めてだったー」
「洗面所どこだよイワン」
「おはよう、そしておは、ふぁあ…」
「朝ごはんー…」

何も無かった空間に人の声が溢れる。ある不幸な不幸な男の事など忘れ去られて日常が舞い戻ってくる。

「おはようございます」

床に開いたクナイの傷を残して。




さあいつも通り




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イワン君がやたら強かったら禿げる
やたらクナイとか手裏剣出来て、やたら早くてやたら強かったら悶え死ぬ。
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