折紙+龍+炎+氷



また会おう、と心に決めた。今までは会いたいと会いたくないで揺れていた心も、大した進歩をしたものだと思う。
スポンサーがいる高いビル。その屋上のフェンスを越した場所でシュテルンビルトを眺める。
高い位置にある太陽が当たってキラキラと反射するガラスを見ながら深呼吸をした。
手入れをしたクナイをぽーんと投げて、刃を掴まないようにクルリと回して手に落とす。憧れでやってみたが、中々難しく、最初は手が傷だらけになったものだ。
今でも浅く残る傷痕に少し誇らしさを感じ、太陽に翳す。赤く透け、血管が見える手に意味も無く笑みが浮かんだ。

(そろそろお昼かー)

がしゃんと背中をフェンスに預け、どうしようかと考えようとするがタイミング良く、ぐぅと腹が鳴り、立ち上がった。
とりあえずと、広げていたクナイや手裏剣を持ち、上着の至る所に隠す。最後に小刀を持ち、タンクトップの中に隠す。一応スポンサーからは許可があるが、あまり見せる物では無い。
完璧に隠せたと確認し、ビルから身を投げる。周りから見れば自殺行為。最初にスポンサーにこうやって帰る姿を見られてこっぴどく叱られた。
自由落下で、体液が偏る。
いつも通り自分を擬態化させると、一気に身体が舞い上がった。鳥とは全く便利な物だと常日頃から思う。
能力はコピー出来なくともその物の性質はコピー出来る。だから最初から備わっている身体能力、才能などはコピーが出来るのだ。犬に成れば早く走れる、視覚も聴覚も良くなる、鳥に成れば飛べる、魚に成れば泳げる、歌手に成れば上手く歌える、といった物だ。
こういう日常生活には重宝するが、ヒーローには本当に向いていない能力だ。
はあ、とため息を付けば口からピュイッと鳴き声が出た。

(てか本当にお腹空いた…)

路地裏に入り、擬態を解く。ザリリッと靴底が擦れる音が響いた。
さっさと路地裏から出て雑踏に足を踏み入れる。ざわざわとした煩さに落ち着きを感じた。

(昨日はスシバーに行ったし、今日はパンかなぁ)

となるとカフェなどで良いだろうと馴染みの店に爪先を向けた。
10分程歩き、少しボロさ…、歴史を感じるカフェの扉を見る。決して大きいとは言えぬ大きさと雑多に置いてあるテーブルと椅子、細々と小物や紅茶の缶が並べられた店内は、常連からとても気に入られている。勿論自分自身もその内の一人に入っている。たまに他の仲間に鉢合わせるのも楽しい。
コロンと扉に付けられたベルに迎えられ、店内を緩く見回した。今日は他の仲間はいない様だなと少し残念に感じながらレジに行き、サンドイッチ2つとコーヒーを注文した。ニコニコと店員であり店長の叔母さんが手際良く準備し、先にコーヒーが出された。それを持って適当な椅子に座る。
一人にしては大きいテーブルには明るい若葉色のテーブルクロスがかけられている。真ん中には申し訳程度だが小さな花があり、その横に紙ナプキンが置いてあって清潔感が保たれていた。どうやら店長のおばさんは緑色が好きな様で、どのテーブルクロスも緑系の色でかけられている。タグも何も付いていないそれはおばさんが作った物だと聞いた。
そろそろカーテンもテーブルクロスも新しく代えたいと思っていた所だし、後で何処の店に売っていたか聞こうかな。

「はい、サンドイッチね」

と思った所でおばさんがサンドイッチとスコーンを持ってきてくれた。どうやら新作の様だ。たまにこうして常連等に振る舞っているのも店を気に入っている理由の1つだ。
サンドイッチ2つじゃ物足りないかもしれないと思っていたので、有り難いなぁと嬉しくなった。ついでに布の店を聞けば地図まで書いてくれた。

「ありがとうございます」
「どういたしまして、さあ冷めない内に食べて食べて!」
「は、はい!」

スコーンの熱さにもたついてしまうが、バターを付けて一口食べる。サクッとした良い音とほんのり香る甘い匂い。素直に美味しいと思った。中にはチョコチップがあったが、甘いというより苦いチョコはデザートとは思わせない。あっという間に1つ平らげ、サンドイッチに手を付けた。
普通のサンドイッチ用のパンでは無く、小さめのフランスパンの真ん中を切り、その中にチーズやハムを詰め込んだ物。サクッというよりジャクッとした歯ごたえ。それとコーヒーは良く合い、ほぅと一息着いた。
コロンとベルの音がして扉が開かれた。つい目を向ければ見知った女の子二人と大人が入って来た。

「あー!イワンっ!」
「え?あ、本当」
「カリーナちゃんとホァン」
「あら、アタシもいるわよぉ」
「ネイさんも」

入って来た三人はおばさんに注文し、早々と椅子を持ってきてテーブルに付いた。ホァンは断りもなくスコーンを食べ始める。ケーキ屋らしき袋とホァンがよく行っている肉まん屋の袋が横にあり、いつもの事ながらすごい、と呆れた気持ちになった。そんな視線に気づいたカリーナちゃんは苦笑いしながら小さな雑貨の袋を掲げる。中にある花の髪留めを見て、言う気の無い言葉が更に奥へ引っ込んだ。
よしよしと思わずホァンの頭を撫でると何を勘違いしたかスコーンを出して「食べる?」と聞いてきた。それは僕のだよ。
カリーナちゃんもスコーンが気になっていたみたいで「1個頂戴!」と言い、食べた。ネイさんも食べ、「あら、美味しい」と驚いた様に口に手を当てた。

「此処の新作とかって本当ハズレない!」
「イワンコーヒー飲んでるぅ〜!苦〜いっ!」
「ちょ!?コーヒーは飲まないでよホァン!」
「あらあらぁ、イワン君殆ど食べられてるわよぉ」
「えぇ?!あ、サンドイッチが無いっ!ホァン!」
「お腹空いちゃったんだもーん」
「はいはい、アタシが奢ってあげるから喧嘩しないの!」

軽くごめんごめんと謝ってくるホァンに全くとデコピンをし、ネイさんの奢り発言に内心やったとガッツポーズした。おばさんがホァンにハンバーグと、カリーナちゃんにパスタを渡す。その時にサンドイッチとコーヒーをまた頼んでおいた。

「次は食べないでねホァン」
「多分ね」
「イワンが手慣れてるって、よっぽど横取りしてるのね」
「太らない体質なのは羨ましいわぁ」
「その分運動してるもん」
「何でも良いけどホァン零してる!」
「兄妹みたーい」

口の周りにソースで汚しているホァンを押さえ、紙ナプキンでグリグリと拭けばカリーナちゃんが良いなぁと言いながらじっと見てきた。確かに妹みたいだと思っていれば、ホァンも同じ様な事を思ったのかフォークをビシッと目の前に突き出し、屈託の無い笑顔で「お兄ちゃん!」と言った。

「はいはい、行儀悪いからフォークで人を指さない」
「あら、じゃあアタシはお姉さんで良いわよぉ?」
「えー!ネイサン狡い!私もお姉さんが良い!」
「ネイさんはどっちかっていうとお母さんだよね」
「あはは、そうかもね、ってカリーナちゃんも付いてるよ」
「え?」

こっち側、と右頬を指せば反対側の頬に手を当てるカリーナちゃんに紙ナプキンを持って取ってあげた。

「取れたよ」
「……お、」
「へ?お?」
「お兄ちゃん…」
「……ぶっふ!」
「あ、カリーナもイワンの妹?」

真面目な顔で何を言うのかと思えば、思わず吹き出してしまい、サンドイッチを持ってきたおばさんに不思議そうな顔をされた。しかもホァンが悪のりしてドンドンお兄ちゃんという立場に築き上げられてしまった。
だが悪くないかもなぁとコーヒーを飲みながら思い、ネイさんを見れば、クスクスと笑って「みんな子供みたいなものねぇ」と言った。彼女(?)が母なら父は虎徹さんかアントニオさんだなぁと思う。

「悪くないなぁ…」
「私一人っ子だから兄弟か姉妹欲しかったんだー」
「うちはいっぱい居るよー。いっぱい居すぎるんだけど上が居なくてさー。イワンがお兄ちゃんっ子で良かったー」
「イワン、兄弟いるの?」
「一人っ子だけど。いやでもホァンと居たら面倒見も良くなるよ。これで長女…」
「?ふぁひは、ひはぁふ」
「あらよく伸びる頬っぺたね」

むにむにと暫く引っ張ってやると「ぬあー」と言い出す。パッと離してやればちょっと赤くなった頬を撫で、「ハンバーグ食べられないー」と食い気を表した。
その後ワイワイと騒ぎ、ご飯を食べ終われば宣言通りにネイさんに払われ、お礼にあちこちの服屋、靴屋、雑貨屋に付き合わされ。おばさんから聞いた布屋は次の休みの日になるなと諦めた。

「イワーンっ!疲れたおぶって!」
「あーもう、いつもの体力は!?」
「これで体力とか言われても…。精神力の間違いでしょ…」
「おぶるから、ごめんてば」
「えー、ホァン良いなぁ」
「え、ちょ、2人は無理」
「大丈夫よぉ、アントニオになれば」
「余計な一言言わないで?!」

こんな日も良いかもしれない。
なんて、大した進歩だ。




進歩する心へのエール




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長い
折紙キャラ崩壊
仕方ないさねあっはっはっ!!
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