戌狗



「世界の最後の日、貴方は何をしますか?」

カチャリと後頭部に何かを突き付けられ、危うくコーヒーカップを落としそうになった。
そっと両手で持ち直し、膝の上に置くとジワリと温かさがその箇所に広がった。
後ろから詰まらなさそうな溜め息が聞こえ、何かが下ろされた。

「詰まらない、詰まらないぜ狗木ちゃん。人生にはほんのちょっとのスリルは必要だ。なのに驚きもしないなんて、詰まらなーい」
「詰まる詰まらないで俺にちょっかい出すな。どうせ撃たない癖に、この駄犬」
「それ程でもごさいませーん」

また後ろからカチャリ、カチャリと音がして、軽口をたたき合いながら渋々振り向けば、戌井は楽しそうに銃を解体していた。
暫く観察し、傷を付け、無理矢理パーツを外すその行為は、もはや解体では無いなと思い直す。
もうあの銃は使えないだろう。

「安物安物、さっき絡んできたチンピラからちょいと拝借したのよー」
「なら売れば良いだろう」
「大した金にはなんねぇよって。はい解体おわりー」

バラバラになったパーツを乱暴に集め、ごみ箱に落とす戌井の子供の様な顔に苛立ち、ドカリと背中を蹴った。大して痛がっていないから全然痛く無いのだろう。
蹴った足を除けると戌井の愛用ジャージに白い埃の足跡がくっきりと残っていた。

「狗木ちゃんの乱暴者」
「そうかもな」
「かもじゃねぇってば。あーもー、跡付いてるし」
「…あ、」
「ん?」

不意に思い付いた事を言おうとしたが、最初に出た母音に、シンと静まった室内から、言い出しにくくなる。
だが戌井は何を言おうとしていたのかただ狗木の言葉を待つ様に狗木を見た。
地べたにぺたりと座り、胡座をかいて見上げてくる戌井は狗木から見れば、

「ふっ、くっ…!」
「え?何何?何よ狗木ちゃん?どーしたのよ」
「おま、おすわりして待てをしている犬みた…っ!く、見るなっ、面白い…!」
「ちょ、狗木ちゃん!一人でツボに入って俺を置き去りにしないで!てか犬って!いや戌だけどね?」

口を手で押さえ、肩を震わせる狗木に戌井は心外と顔にありありと書きながら急いで立ち上がった。
ムスリと口を結び、じとりと見てくる戌井にまた狗木は笑う。

「わーらーうーなっ!」
「いや、くっ…!最後もこんな感じなら、良いな、ぶっ!その顔っ!」
「…〜〜っ!狗木ちゃんの馬鹿!天然タラシめ、俺の心臓がハート泥棒だよっ!ハートブレイカーめっ!」
「頭が頭痛並に意味分からないぞ、ふっくっ…!」
「くそう!俺だって最後は狗木ちゃんと無理矢理一緒にいてやるからなぁ!」

いよいよ本格的にツボに入った狗木は戌井の赤面に、軽い酸欠状態で薄く涙が張った目を向けて数年振りの笑いを心行くまで楽しもうと決めた。




馬鹿馬っ鹿!




___
戌狗だよっ!
そのつもりだよ!
狗木ちゃんって変なとこでツボに入りそう。
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