グラシャフ



「グラハムさん、俺人間じゃないんですよ」

ドラム缶に座ってレンチを空中で回していたグラハムはシャフトの唐突な言葉に思わずレンチを受け取り損ねた。カランからんと高い音が二人しかいない廃工場内に響く。

「…笑えない話だな」
「俺は本当は不死になれる酒を飲んだ不死者を媒体に創られた意識のある薬で色んな、それこそ世界中ほとんどの男性の中にいるんです」
「随分壮大だなシャフト、エイプリルフールも解らなくなる程に悲しい悲しい頭になっていたとは知らなかった!」
「………」

グラハムはコンクリートの地面に落ちたレンチを拾い上げ、また回し始める。パシッ、パシッパシッ、パシッ、といつもより早く乱れた様に回されて受け止められるレンチをシャフトは静かに見詰めて、ただ一言、その廃工場から遠く離れた場所にいる自分に呟かせた。
そんなシャフトを見計らった様にグルリと身体ごと振り向かせたグラハムは無邪気に笑いながら言う。

「ああ、それとなシャフト」
「何ですか」
「俺はお前一人だけしか要らないとか、お前一人しか愛してないとか、お前ごと全員愛してやるとかハッキリ言って無理だ。だから」

俺が世界中のお前に愛されてやる

何の躊躇いも無く、無邪気に口に出された言葉にシャフトは言葉を無くす。ただ何を言おうとしたのか開いた口がぱくぱくと数回開閉しただけだった。

「世界中のお前は俺だけ考えて、俺だけを見て、そうしてシャフト、お前が代表で俺だけに愛されろ」

随分残酷だとシャフトは思った。グラハム自身も残酷だと思った。それは世界中のシャムに対して、自分しか愛するなと、心を許すなと言うのだ。そしてその心を裏切っておきながらシャムを、シャフトだけを愛するのだ。
シャフトは静かに静かに、残酷だと口から零した。

「嗚呼残酷だ。俺はお前を裏切るけどお前だけを愛してやる。浮気なんかしてやらない、お前が死んでもお前と浮気なんかしてやらない」
「ははっ、ひど…」
「お前だって、酷いだろう」

徐々にいつもの調子でレンチを回していくグラハムはケラケラとシャフトと自分自身を笑う。
そしてシャフトは今度はシャフトの声で呟いた。

「貴方に薬を飲ませたいと全く思わない…」
「ああ飲みたくないな!そしたらお前は俺を愛さないだろう!俺は俺でいてやる、ただのグラハム・スペクターで!だからお前は黙って愛されろ」

回していたレンチを受け止めてドラム缶の上に置きながらグラハムはシャフトに向かって笑ってやった。




残酷不条理な答え




___
シャフグラよりグラシャフの方がいいと思う
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