溺愛ビギナー
ピピピピ!
体温計が計測終了を知らせる。
レオの手はそのまま空を切り、アンの温もりが離れていく。
「………………」
「38.3℃………」
「……アンちゃん。それ…ちょっと食べたい」
絶対に辛いであろう高熱の数値を目にしたアンは、痛ましげに微笑んで快諾し、レオからカップを受け取って、ポリッジの器を手に取った。
スプーンで掬って、またしてもアンは、ふぅー、ふぅー、と冷ましてくれる。
「………………」
まただ…。アンがこうしてくれるのを見ていると、胸の奥がくすぐったくて、むずむずする。
「はい、レオ。あーん」
「えっ…?」
「あーん、して。レオ」
「食べさせて…くれるの?」
「えっ?……う…、うん」
まさかアンに食べさせてもらえるとは微塵も思っていなかったレオは、この展開に思わず赤面してしまった。
アンは、と言えば、耳まで真っ赤にしたレオがぱちぱちと瞬きを繰り返しながらそんなことを聞いてくるものだから、無意識にした自分の行動を改めて振り返り、なんだか気恥ずかしくなってしまう。
「…レオはいつも私のこと甘やかしてくれるけど…本当はもっとレオに甘えてほしい。私がレオを、甘やかしたいの」
アンが恥ずかしそうに顔を俯けて、上目遣いでレオを見る。
レオは胸の奥がきゅうっと締めつけられて、熱く燃えるような熱に苛まれる。
それはきっと、風邪による高熱のせいだけではないはず…。
「はは、参ったな…。甘やかされるなんて、慣れてないから…やり方わかんないよ」
「こうするだけで、いいんだよ」
アンは手にしていた器をサイドテーブルに戻して、レオの頭をそっと自分の胸に抱き寄せた。
そして、優しく髪を梳く。
「……うん。ありがとう…アン」
すぐそばにあるアンの鼓動が刻むリズムが心地良くて、レオは目を閉じた。
穏やかに流れる時間に、たまには風邪をひくのもいいかもしれない、なんて、戯けたことを考えながらレオは愛される喜びに身を浸した…―。
-END-
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