with Claude
夜の帳が下りた通り慣れた道に、一人分の足音が響く。
「…………」
「元気出せよ、お姫様?」
依然として黙ったままの、背中に感じる愛しい重みに、クロードは顔だけ振り返って声を掛けた。
「…だって、重いでしょ。ごめんね、クロード…」
一緒に花火を見ようと、二人で高台を目指して城下を歩いていた途中、アンの履いていたヒールの踵が片方折れてしまった。
新しく靴を買おうにも、店はすでに閉まっていたし、靴を換えに城に戻っていては花火に間に合わない…。
アンは、沈む心を抑えつつ、どうしたものかと瞬時に頭を回転させていると、クロードはアンの考えを見透かしたように、笑って言ってくれた。
――乗れ、アン。それに、花火も諦める必要はないよ。
その場にしゃがんで、背中に乗るよう促して。
アンも最初は遠慮したが、なんだかんだ結局クロードの思うように事は運ばれ、アンは踵の折れたヒールを手にぶらさげ、クロードの背中に負ぶさった。
「着いたよ」
優しい声音に顔を上げれば、少し遠くで咲く満開の花火。
微かに耳に届く轟音は、すぐそばに打ち寄せる波音に混ざって溶けていく。
「…ここ」
「海で見る花火も、悪くないだろ」
クロードはそう言って、アンをそっと砂浜に下ろした。
「靴も必要ないしな」
ふっと微笑むクロードの意図にようやく気付いて、アンは嬉しさのあまり思わずクロードの背中に抱きついた。
「どうした?」
「…ありがとう。ここなら、靴がなくても歩ける…。それに、クロードと二人きりで…花火、見れて…っ、嬉しい…」
「………泣いてるのか?」
お腹に回されたアンの手を優しく解いて、クロードはアンに向き直った。
俯いているアンの顎に指先で触れ、くいっと上向かせる。
「……見ないで」
「世話の焼ける可愛いお姫様だ」
クロードはアンの頬に伝い落ちる涙を拭うと、小さく音を立てて額に口づけた。
見下ろした先の、アンの鼻先が赤くなっているのが薄闇の中でも分かって、胸にじわじわと愛おしさが湧き上がってくる。
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