with Leo
「わあ……!」
夜空に打ちあがる色とりどりの花火に目を煌めかせ、アンは感嘆の声を上げる。
体の芯にまで、ずしん、と重く響くような轟音が、咲き乱れる花火を追うように空に鳴り響いた。
「ウィスタリアの花火、すごくきれいだね」
アンは目線を空に向けたまま、隣にいるレオに話しかけた。
しかし、返事が返ってこないことを不思議に思って、アンはレオに視線を向ける。
すると、ずっとこちらを見つめていたのか、すぐさま視線が重なった。
「レオ?」
「んー…。アンちゃんの方が、きれいだなと思って」
レオは首を傾け、優しい眼差しでアンを見つめる。
アンはレオの言葉に、ぽかんと口を開け、呆然とした。
「な、なに言って…っ」
「ほんとだよ。それ、浴衣…だっけ?すごく色っぽい」
やっと思考が追いついて一気に顔を赤らめたアンを、熱を蓄え始めたレオの瞳が、上から下まで舐めるように見つめる。
レオは組んでいた腕を解くと、片手で軽くアンを自分の方へ抱き寄せた。
少しの反動を伴って、レオの腕とアンの肩がぶつかる。
「レオ…っ、皆いるから、その…」
アンが恥ずかしそうに俯いたのを、レオは愉しげに見下ろす。
今夜は、ジルの提案で、城の敷地内にある小高い丘に来ていた。
遮るものが何もない開けた夜空は、まるで映画のスクリーンのようで、皆が同じ方向を向き、美しく咲き乱れる花火を見つめている。
「皆、花火に夢中で気づかないよ。…アンちゃん、顔上げて」
耳元でそっと囁かれて、アンはそろりとレオを見上げる。
すると、待ってましたと言わんばかりにレオの顔が近づき、あっという間に視界はレオに埋め尽くされて、唇を奪われた。
「…っ……」
レオ、睫毛長い……、瞬きもせずそんなことを思っていると、不意に唇の上を滑る熱く柔らかいものに、一気に現実に引き戻される。
「……ごちそうさま」
「レオ…っ!」
離れ際にチュ、とひとつ、うなじへキスを落として顔を離したレオが意地悪に笑み、アンがレオの胸をぽかぽか叩いているところへ、近づいてきた靴音があった。
「ほんと、ごちそうさま、だな」
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