詐欺師にご注意


「…なあ、古森。最近こんなLINEが送られて来たんだが。」

「うん?」

氷帝学園の生徒会長であり、テニス部部長。カリスマ性があり、類稀な容姿を持った彼に惚れる女生徒は後を経たず。極めつけに跡部財閥の御曹司という誰もが羨む、カリスマ物件の隣の席に、わたしはどういう因果か席替えでなってしまった。

テニス部にはあまり興味が無かったため、跡部景吾という人物のイメージは、"俺様の美技に酔いな"とかナルシスト発言をかます、高飛車男というイメージだったけれど、隣の席になってそのイメージは払拭された。

"跡部様"なんて、女の子に騒がれている彼も同じ普通の中学生だったのだ。
まあ、お金持ちなだけあって、常識とズレた発言をしたりすることもあるけれど、人気者ということを鼻にかけず、気さくに話しかけてくれるし、この前わたしが駄菓子屋で買ってきたココアシガレットを学校に持って来た時なんか、とても感動していて少し面白かった。

…そんな跡部がいつになく真剣な表情をするなんて何事なんだろう、と目の前に差し出されたスマホの画面を覗けば、ネットで話題になっている文章が並んでいた。

"近くのコンビニエンスストアでiTunesのプリペイドカードを買うのを手伝って貰えませんか"

"一万円のiTunesカードを5枚買って、番号の写真を撮って送ってください"

「…これって」

今流行りの詐欺じゃん。と跡部に言おうと顔を上げると、目の前には信じられない光景が広がっていた。

「…あ、跡部、何してるの?」

「あーん?見て分からねえのか?そいつが言う"iTunesカード"とやらを用意させたんだよ。」

そう得意気な顔を浮かべる跡部の机の上には、山のようにiTunesカードが置かれていた。ざっと見ただけでも、100枚はゆうに超えているのではないだろうか。

「こんな物が欲しいなんて、そいつも変わってるな。」

「いや、跡部」

「まあ、俺様を頼るだなんて分かってるじゃねーの。」

「跡部!!!」

「なんだ、古森。そんなおっかねえ顔して。」

「跡部、それ騙されてるよ…」

「あーん?」

それまで機嫌の良さそうだった顔が、少し険しくなり威圧感が増す。それに耐えながら、わたしはなんとかLINE詐欺について説明をした。

「…というわけで、それは詐欺!詐欺なの!」

「なるほど。お前の言い分は分かった。だが、この俺様のインサイトで詐欺を見抜けないとはな…」

そう頭を抑える跡部に、何も知らない通称雌猫と呼ばれる女子達が、後ろの方で"悩んでる跡部様も素敵〜!"なんて騒いでいるのが聞こえてきて、はあ…とわたしは溜息をついた。そもそもインサイトって、そう簡単に日常生活で使えるものなのだろうか。

「…詐欺?ペテンということはつまり…立海の仁王の仕業か!はーっはっはっは!仁王、やるじゃねーの!この俺様を騙すなんてな!だが、このまま黙ってはられないぜ!」

突然跡部はそう叫ぶと、今までに見たことのないような嬉しそうな顔で走り出した。その後にはどこから現れたのか、後輩の樺地くんが続いている。

跡部が何をするつもりなのかは分からないけれど、この後巻き込まれるだろう"立海の仁王さん"という人にわたしは同情した。





「おい仁王!俺様をよくも騙したな!」
「お前さん、なんでいるんじゃ!?」
「LINE詐欺とはやってくれるじゃねーの!」
「なんの話か分からんのう…プリッ」

fin.
(2014.09.27.)

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