どうしようもなく熱く
「はあ…どないしよ…」
四天宝寺中のテニスコートで楽しげに打ち合っている金ちゃんと千歳を見ながら、わたしは独り呟いた。
「どないしたん?さっきから溜息ばっかついて」
いつの間にか隣に立っていた部長の白石を見上げながら、わたしはもう一度はあ、と溜息をついた。
「どないしたら、金ちゃんに伝わるかって思ってな。」
「何がや」
「うちの恋心。」
相変わらず、千歳と金ちゃんのラリーの音がコートに響いている。どんな金ちゃんも好きやけど、やっぱ大好きなテニスやって、目ぇキラキラさせてる金ちゃんが一番やなあ、なんて思ってるとかなりの時差で白石が叫んだ。
「は!?自分、金ちゃんのこと好きなん!?」
「そやけど。」
「金ちゃんって…あの金ちゃんやろ!?ゴンタクレの!」
「おん。」
白石はこれでもかっていうぐらい、目をかっ開いている。…ああ、折角のイケメンが勿体無いわ。
「茜〜!喉渇いたぁ!」
千歳との打ち合いに区切りがついて来たのか、ドリンクを求めてこちらに走って来た金ちゃんにボトルを渡す。ゴクゴク、と汗を滴らせながら豪快に飲む姿に少し胸がきゅんと鳴った。
「…金ちゃん、部活終わったら、うちとたこ焼き食べに行かへん?うちが奢ったるさかい。」
「ほんま!?行く行く!わーい!たこ焼きやー!茜、おおきに!」
よほど嬉しいのか、コートをぴょんぴょん飛び跳ねる金ちゃんを微笑ましく思っていると、白石がダメや、と呟いた。
「ダメって何が?」
「茜は、金ちゃんとやなくて、俺とデートするんやろ?」
「は」
「彼氏の俺より、後輩優先するなんて、許さへんで。」
こいつ何言ってるんやろ。ついに頭湧いてしもうたんか。大体、今の今までうちが金ちゃん好きっちゅー話してたっていうのになんやねん。驚きのあまり口を開けて惚けていると、白石は「照れてるん?茜はかわええなあ。」なんて言いながら頭撫でてくるもんだから寒気がした。そもそも普段、うちのことは名字で呼んでたはずや。そうこうしている間に、白石はうちの腕を掴んで「はよ、着替えよか」なんて言って、更衣室へと向かい出していた。
「い、嫌や!」
大きな声と共に白石に引っ張られているのとは反対の腕が、グッと掴まれた。振り向くと、泣きそうな顔をした金ちゃんがわたしの腕を掴んでいた。
「茜、白石のこと好きなん?」
「えっと」
「ワイ…ワイ、嫌や〜!茜と白石が付き合ってるなんて嫌や!」
「金ちゃん、落ち着いて…」
「ワイな!茜のことめっちゃ好きやねん!だからな、茜が他の奴のこと好きなんて…嫌やねん!」
「…えっ!?」
き、金ちゃんがうちのことを好き?…いや、まだ喜ぶのは早いかもしれん。だって、金ちゃんのことだから、恋とか愛の好きとかやあらへんで、純粋にうちのことを慕ってるだけかもしれへんし。
「き、金ちゃん。ありがとな、うちめっちゃ嬉しいわ。」
いつの間にか、白石から解放されていた手を金ちゃんの頭に乗っけて、目線を合わせるように屈みながら優しく撫でると金ちゃんは嬉しそうに笑った。
「ワイと茜はりょーおもい、やな!」
えっ、今なんて?そう聞き返す前にわたしの唇は塞がれた。…金ちゃんの唇によって。
「ほな、ワイ部活頑張ってくるわー!終わるまで待っててなー!」
「…う、うん。」
嵐のような勢いで去って行く金ちゃんにやっとのことで手を振り返す。その場に残されたのは、うちと一部始終を見ておった白石なわけで…。
「んんーっ、絶頂ー!やっぱ金ちゃん、流石やわあ。女の子の口説き方も男前や!」
「白石まさか…」
「金ちゃんが古森のこと好きなことなんて、部活のみんな知っておったで?気づかんかったの自分くらいやろ。…まさか、両思いだったとは知らんかったけどな〜。ま、晴れて両思いになれたんやし、エクスタシーやな!」
そう、女の子が見たら卒倒しそうなぐらい眩しい笑顔を浮かべて、白石はポン、とわたしの肩に手を置いた。
ふと周りを見れば、いつのまにやらテニス部のみんなが集まっていて、みな一様に笑顔を浮かべている。ただし、財前とユウジを除いて。
謀られた。そうは思うものの、先ほど金ちゃんのと触れた唇がどうしようもなく熱くて、周りの目線を気にする余裕なんてうちには無くなっていた。
fin.
(2014.08.27.)
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