今はそれでも


辛い。そう言って茜は静かに泣いた。俺が何も言わずに茜の隣に座ると、ポツリポツリと彼女は話しだした。

「神尾くんがね、毎日杏ちゃんの相談をしてくるの。…わたし、神尾くんと杏ちゃんの恋を応援するって決めたはずなのに、神尾くんの口から杏ちゃんの話を聞く度に苦しくて、杏ちゃんが羨ましくて…。こんなことを考える自分が一番嫌いで…。」

そう話している間にも、茜の頬を涙はどんどん伝っていく。俺はその様子を見つめながら、ぼんやりと考えた。何で茜は神尾が好きなのだろう、と。

はっきり言って神尾は煩いし、リズムリズムしつこいし、無神経だし、鈍いし。その証拠に茜はいつも神尾のせいで泣いてばかりじゃないか。その度に俺が慰めてさぁ…。毎回神尾への恋心を聞かされる俺の身にもなってみろよなぁ。……はぁ。何だかムカついて来た。今度神尾にマックシェイク奢らせよう。何がムカつくかって、茜が神尾を想って泣いてるってことなんだよ。やっぱりシェイクだけじゃ割に合わないよなあ。ポテトも奢らせるべきだろ。そんなことを考えながら、俺はゆっくりと茜の頭に手を伸ばした。柔らかな女の子らしい髪が、俺の指の間を擽る。

「…泣くなよ。俺が泣かせたように見えるだろ。」

「ごめん…、深司くん」

そう言って茜は涙を止めようと、必死に袖口で目元をこすりだした。あーあ。そんなにこすったら、赤くなるのに。

「……はぁ。分かったよ。…今日は思う存分泣けよ。」

俺の言葉に茜は驚いたように瞬きを繰り返した。そりゃそうだよなぁ。さっきと正反対のこと言ってるわけだし。

「今日までは、好きなだけ神尾のこと考えて泣けば。…でも、明日からは辞めろよなぁ。」

俺の言っている意味が分からないのか、茜は少し首を傾げた。……はぁ。昔から鈍いやつだとは思ってたけど、はっきり言わないと駄目なのかよ。めんどくさ…。大体全部神尾が原因なのに、何で俺が頭を使わなくちゃならないんだよ。責任取れよなぁ。

「あんたが神尾のこと想って泣いてるのを見てると、俺だって辛いんだよ。」

茜は鼻をぐずぐずと啜りながら、深司くんは優しいね、と笑った。…折角勇気出して言ったのに全然気付いてないじゃん。本当に鈍感だよなぁ。嫌になるよなぁ。……まあ、茜が笑ってくれたから、今はそれでいいか。

「深司くん、ありがとう。元気出たよ。」

「…あっそ。」

でも、いつかは気づいてもらわなきゃ困るけど。

fin.
(2014.03.30.)

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