ズルいです、先輩


「ここの紅茶、とても美味しいですね。香りが深く、味わいもいいです。」

「本当ですか?はじめ先輩に気に入って頂けたみたいで嬉しいです。」

クラッシックが流れ、落ち着いた雰囲気のカフェでわたしは、はじめ先輩と向き合って優雅なティータイムを楽しんでいた。

ラケットが欲しい、というはじめ先輩の買い物に付き合った後、紅茶が美味しいと評判のこのお店に先輩を案内したのだけれど、気に入って貰えたようでよかった、と息をつく。

はじめ先輩は紅茶のこととなるとこだわりが深く、先輩を満足させるようなお店を見つけるのは結構頭を使う。家に帰ったら、手帳にメモしておこう、と忘れないよう頭の中で何度も念じた。

「それにしても…」

先輩は口をつけていたカップをソーサーに置き、いつものように人差し指で髪の毛を絡め取った。くるくる、と幾度も繰り返されるその動作がわたしは好きで、はじめ先輩の整った顔に魅入ってしまう。

「最近、とても忙しくて久々に休んだ気がしますね。…貴女とこうして出かけるのも、しばらくぶりでしょうか。」

「そうですね。…確かに、久しぶりです。毎日会っているので、あまりそんな気はしませんけど…。」

「んふっ、そうですね。でも…こんな穏やかな時間を過ごせたのは、久しぶりだと思いませんか?」

そう言って、ふわりと柔らかい笑みを浮かべたはじめ先輩に、わたしは頷いた。

はじめ先輩と付き合い始めて三ヶ月。文化祭の日に告白された後、先輩の誘いでテニス部のマネージャーとして、はじめ先輩の近くにずっといたせいか、寂しさは感じなかった。

けれど、大会に向けての練習メニュー作りや日々の仕事が忙しく、2人きりで出かけるのなんて本当に久しぶりだ。

改めて2人きりだと考えると、なんだか恥ずかしくて、でも嬉しくて。頬がだらしなく緩むのを悟られないよう、俯くとクスクスと笑い声が降って来た。


「隠すことないですよ、茜さん。ボクも嬉しいのですから。」

「で、でも…はじめ先輩と違って、なんというか…みっともないですし…!」

更に俯こうとすると、はじめ先輩の手がわたしの頬に触れた。

「どうしてです?可愛いですよ、茜さん。」

はじめ先輩の大きな手によって、目が合うように顔を上げられる。そのせいではっきりと視線が交差し、頬に熱が集まるのが自分でも分かった。

「本当にあなたは、ボクのシナリオ以上の反応をしてくださるから、一緒にいて飽きませんね。」

「は、はじめ先輩…」

「…んふっ、仕方ありませんね。離してあげますよ。」

ふわり、と頬から離された手にほっと息をつくわたしとは正反対に、はじめ先輩は涼しい顔をして紅茶を飲んでいる。

いつも冷静で慌てた顔など見たことがないことに気がついて、少し悔しくなった。いつもわたしは、はじめ先輩にからかわれてばかりで。

「…茜さん?もしかして、怒ってしまいましたか?」

「別に怒ってません!」

目を合わせず、はじめ先輩がお勧めだと注文してくれた紅茶のカップを手に取る。けれど、その上からはじめ先輩の大きな手がわたしの手を包み込んだ。

「すみません、あなたの気を悪くしてしまって。」

素直に謝られてしまえば、こちらも文句を言えるわけがない。

「う…こ、今回だけですからね!」

「…ありがとうございます。」

わたしだけに見せてくれる綺麗な笑顔が咲く。

それを見て、わたしは悟った。
ーーーああ、きっとわたしはこの人には勝てない。

何もかも分かった上で、こんなことをするのだから。

ズルイです、先輩。

fin.
(2013.12.26.)
※イメージとしては学園祭の王子様END後

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