Birth


確かに両親は、自分の成績を褒めてくれるし、自分を誇りに思い沢山の投資をしてくれていると思う。
…しかし、自分が虐められていると告白した時はどうだ。
時が解決してくれるとばかりに目をそらし、何一つ力になってはくれなかったではないか。
彼らがいなければ、緑間は今、この世にいないかもしれない。
当時はそのくらい追いつめられていた。
翌朝が待ち遠しくなったのは、高尾と出会い、仲間を見つけてからだ。

「確かに両親は俺によくしてくれたと思うのだよ。育ててもらった恩もある、だが、俺の人生なのだからどう過ごしても…」
「確かにお前の人生だよ。だけど、お前の人生に関わる人は、お前だけじゃない。お前の為の人生だけど、お前だけのものじゃないんだ。わかるだろう?」
「っ、赤司は俺がここで働くことに反対なのか」
「あぁ。…もっと言えば、今日からもう、来ないでくれと言おうとしていたところなんだ」

赤司の言葉に、緑間の目の前が真っ暗になる。
此処はようやく見つけたと思った、緑間のたった一つの居場所だった。
此処にいると、笑顔になれた。
此処に来れば彼らが、高尾が待っていると思うと、学校に行くことが苦ではなくなった。
皆もいつも笑って自分を迎えてくれたから、自分は受け入れられているのだとばかり思っていた。
緑間の双眸から、大粒の涙がこぼれる。
それを見ていた黄瀬が、思わず赤司に掴みかかる。
青峰が面倒臭そうに止めるが、黄瀬はひるまなかった。
せっかく仲良くなれたのだ。
それなのに、どうして。

「何で!?なんでそんな事言うんスか!?だって、赤司っちが去年言ったんじゃないスか!分かってるさ。君の気持ちが向いた時にだけ、遊びに来てくれればいい、君には今、話を聞いてくれる人が必要だ、って…!ちょっと元気になったからってもう来なくていいって、緑間っちは玩具じゃないんスよ!」
「おい、黄瀬」
「玩具だなんて思っていないさ。僕だって、いつまでだって守ってあげたい。…だけど、そういう訳にはいかないんだ」

淡々とした赤司の口調に、これが決定事項であったことを知った。
緑間をここで雇わないことだけではない。
もう、ここへは来させて貰えない。
ほぼ毎日のように通っていた緑間は、失意のどん底に叩き落されたような気持ちでいっぱいだ。
赤司の言葉も、黄瀬の言葉も、うまく耳に入ってこない。
あまりの悲しみに部屋を飛び出して行ってしまう緑間を視線で追いかけた紫原が思わず立ち上がる。
紫原は緑間を追おうとしたのだろう、しかしそれを赤司が厳しい口調で止めた。
むっとした表情で振り返ると、どこか咎めるような口調で言う。

「敦、ダメだ」
「なんで?黄瀬ちんの言うとおりじゃん、いきなりあんな風に言われたら誰だって辛いし」
「これはね…和成の意向なんだ」
「高尾っちの!?一体どういうことっスか」

そう黄瀬が叫んだ瞬間、店のドアが少々乱暴に開けられた。
高尾がスーツ姿で入ってきたのだ。
しかし、そのスーツはいつも店で着用しているような派手なものではなかった。
営業鞄のようなものまで抱えて、暑そうに汗を浮かべている。
ネクタイを緩め、ソファにどかりと腰かけている高尾を見て、最近姿を見せていなかった彼が久しぶりに出勤してきたことで、青峰と紫原が駆け寄る。

「おい、」
「あっ、久しぶりじゃん」
「久しぶりどころじゃないよ〜。ねぇどうしてミドチンにあんなこと言ったの?」
「あー…やっぱ真ちゃん今日も来てた?」
「当たり前じゃないっスか!」

高尾は苦笑を浮かべ、目の前に出された水を一気に飲み干した。
彼が先ほどまで作っていた男本を手に取り、ゆっくりとめくりながら高尾は言う。
このままじゃ、こんな汚くて小さな店ひとつが真ちゃんの世界の全てになっちゃうでしょ、と。
つまりはこういうことらしい。
苛められ、世界の全てに絶望していた緑間が、唯一の居場所と見つけたのが此処のホストクラブだった。
そこには緑間に優しい人間と、緑間を大好きな人間、そして緑間が話しやすい環境、過ごしやすい雰囲気がある。
いつもそこに浸っていると、甘えてしまう。
そうすると、いつまでたっても緑間は子供のままだ。
甘露を啜り、箱庭の中で生きていくことは、緑間の幸せにはならないのではないか、と高尾なりに考え、思い至った結果だったのだ。

「そんなのお前の勝手じゃないのー?自己満だよ、俺にはそうにしか聞こえないしー」
「今は、…確かにそうかも。だけど、絶対真ちゃんはこんなところでくすぶってるやつじゃない。頭もいいし、性格もいい。…カワイイとこだってさ、あんじゃん」
「だからあえて、ってのか」
「そそ。…可愛い子には旅をさせよ、って言うじゃん?…けど…いきなり天の川を一人で横断しろ!なんて、そんなことは言わないからさ」

紫原と青峰に追及されても、高尾はぱちんとウインクをするだけだった。

Happy Birthday!

緑間真太郎、お誕生日おめでとうございます。
好きになってからもうどのくらい経つのか忘れてしまいましたが、連載が始まった時からずっとあなたを見ていました。
訳の分からないメガネキャラだったあなたが、ここまで大きく成長し、仲間の大切さを思い出し、もう一度人を信じられるようになったこと、とても嬉しく思います。
秀徳があなたを選んでくれて、本当に良かった。
人事を尽くしている仲間があなたを迎えてくれて、本当に幸せです。
あなたは独りではゾーンに入れないでしょう、だけど仲間と、高尾と一緒になら入れるかもしれません。
そうなったら、きっと、幸せですね。
これからもずっと、ずっと、ずっと大好きです。
人事を尽くすあなたに、いつか最高の勝利がもたらされると信じて!

2014*07*07




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