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トランキライザー



突然後ろから強い力で抱きしめられて、思わず足を止めた。


ここは部室。こんなことをしてくるチームメイトは1人しか知らない。


「…侑士?」


俺を抱きしめる力がより強くなって、予想が外れていなかったことが明確になった。

こうなった侑士は長期戦だ。


まず喋らない。何を聞いても返答すらなくなる。そして動かなくなる。自分より背の低い俺をぎゅっと抱き締めて離さなくなる。


なんとか宥めてソファに座せると、俺の肩に寄りかかる体制をとったまま、ぴくりとも動かなくなった。


長い前髪のかかった顔は影が落ちて表情を伺うことは叶わない。


「心を閉ざせる天才」なんて言われたコイツがいかに脆いかということを俺は誰より知っているから。


俺の前だけでしか見せないその顔を笑顔に変えてやる。
そのために、俺は今ここにいるのだ。

2008/02/12
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