日中はまだ暖かいというのに、朝晩だけ妙に冷える日々が続く。
動いてしまえば昼間は暑いくらいの陽気なのだから、マフラーや手袋を出すにはあまりに早すぎると思って我慢している。
けれど、気候の変化を前に俺はあまりにも無力だった。
「寒い」
「………」
聞いてないなこいつ。
仏頂面でただ隣を歩くこの男は俺の話なんてこれっぽっちも聞いていない。
まあ、寒いだの暑いだのなんて呟きにわざわざ返してくれるほど律儀な奴じゃないということは俺が一番判っているのだけれど。
ちぇ、つまらない。
思わず唇を尖らせて、視線を真田から外す。
すっかり冷えてしまった指先を擦ってみても、少し気が紛れるくらいであまり温かさは感じられない。
それならと両手を口元に当てて息を吹きかけてみる。体温で温められている空気が一時的に手の平に触れて、ほんの少しだけ熱を取り戻した気がした。
それでもしばらくすればまた冷えた空気に晒されて指先はしんと冷えてしまう。
結局はその場しのぎにしかならなかった。
思わず小さくため息をつく。
寒いものは寒いのだから仕方ないし、別に誰が悪いというわけでもないのだけれど、どうしても身体が冷えるのが苦手なのだ。
少し恥ずかしくても手袋を出すべきだろうか。いや、でもまだ10月だしどう考えても早すぎる。
ぐるぐるとひとり考え事をしていると、不意に隣の男が左手を伸ばしてきた。
擦り合わせていた両手に、なぜか真田の手が重ねられている。
「真田?」
思わず首を傾げるも、真田は相変わらず無言のままだ。
今日のこいつはよくわからない。
そう思った瞬間、気づけば右手を真田に奪われていた。
やたら強引に、というより力任せに俺の右手を自分に引き寄せて、左手で握り込む。
何が起きたのか一瞬よくわからなくて何度か瞬きしてしまう。
もしかしなくても、俺は真田と手を繋いでいるんじゃないだろうか。
真田の突然の行動に急に面白くなってしまって、俺はとなりの男の顔を覗き込んでみた。
案の定、真田の顔は真っ赤になっていて、自分で仕掛けたくせにと笑いが堪えられなくなってしまう。
もちろん、笑い声は出さないようにしているよ?
せっかく真田の方から手を繋いでくれたのだもの。
真田はなんだかんだ俺に甘いからね。
ぶっきらぼうに繋がれた右手は、さっきよりずっと暖かかった。
2012/10/14
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