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噛み付く



ふいに目覚めたそのとき、色素の抜けた淡色の髪が目に入った。


普段は細くて鋭い瞳は、今は静かに伏せられている。

細く整った眉に、薄いくちびるも軽く閉じられていて、小さな寝息が微かに聞こえてくる。


霞がかった意識の中で、思わず俺は驚いてしまった。

それは、なんでこいつが此処に居るのかとか、そんな問題ではなくて。


「(仁王が…寝てる…)」


仁王はかなり眠りが浅い。

合宿の時に聞いた話だと、あまり親しくない者と同室だと足音だけでも覚醒してしまうらしい。

従って、一回眠りの世界に落ちてしまえば目覚ましの音でも起きれない俺は、コイツより早く起きれた試しがないのだ。

これまで何度も二人で朝を迎えてきたが、俺が起きるころには既に仁王は目が覚めていた。それも毎回。

それはつまり、俺がコイツの寝顔を見たことがない…という事を的確に示しているわけだ。


「(珍しい…マジで珍しい…)」


今日は雪かも、なんて頭の端で思いつつ、気付けば俺はまじまじとコイツの顔を観察していた。

白くて細い髪は、あまり日焼けのしない奴の顔にさらりと音を立てて寄り添って
いる。

なんつーか…

「(キレイ…なんだよな、うん)」

そうして暫く惚けていて、不意に我に帰る。

そして、無意識に仁王を見つめていた自分に気付くと、かあっと身体が熱くなった。

誰に見られている訳でもないのに、ものすごく恥ずかしい。


「(…ッ…危ねぇ危ねぇ!今日はコイツと出かけるんじゃん…こうしちゃいらんねぇし!)」

放っておけばじきに起きてくることは分かっていたけれど、このままでは心臓に悪い。
顔の熱は収まってくれないが、早く仁王を起こしてしまいたかった。


「おい雅治、起きろ」


掛布団をかぶったまま乱暴に体を揺すれば、仁王は直ぐに目を覚ました。やっぱり普段から眠りが浅い方なんだろう。

「…ブンちゃん…?」
「起きた?」

切れ長の瞳がゆっくりと開かれて、気だるげに瞬きを繰り返す。

「ん、おきた…けど…」
「…けど?」
「まだ眠いんじゃ…」
「っておい、二度寝すんな!」

そう言って再び眠り込もうと瞼を閉じようとする仁王を焦って引き留める。
ここで眠られたら堪ったもんじゃない。


「雅治、起きろって!」
「んー…」

以外に寝起きが悪い仁王に内心驚きながら再び体を揺すると、ぼんやりとした表情のまま目が合った。


「ブンちゃん…」
「…何?」

「ブンちゃん…美味しそう…」
「は!?っておま、何して、うわあぁあぁ!」


かぷっ。


耳付近にぞわっとしたものを感じたのと同時、俺は仁王のやろーに首筋に歯を立てられていた。

強く噛みつかれたわけでないが、ぞわぞわと寒気のような感覚が首筋から足爪の先まで走って肌が粟立つ。

「っ、テメェ!何すんだよ!」

思わず仁王を無理矢理引き剥がして怒鳴りつける。
いきなり噛み付いてくるとかマジ意味わかんねぇし!

「やて、ブンちゃんが美味しそうだったから。」

仁王は少し目を細めて微笑むようにして俺を見てくる。
俺おまえのそういう顔、好きなんだよ…ムカつく。

「俺は食い物じゃねーっての」
「おや、そうだったかのう。首筋なんてぷりぷりしてて美味しそうだったからつい」

ちょっと待て。
誰がぷりぷり太って美味しそうだって…?

「ッ、この俺様が太ってるわけねぇだろ!!」
「おや、誰もそんな事は言っとらんがのう〜」
「ッ…マジムカつく…!!お前なんかこのまま寝てろ!」

「あれ、今日は一緒に出掛けるんじゃなかったかのう。寝ちゃってもいいんか?」
「………ッ」


ムカつく。
マジでムカつく。


でも、


「……ほら、さっさと起きろ。支度する」


今まで見たことなかった雅治が見れたことに免じて、今日は許してやるよ。


2008/09/30
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