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ベックマンは医務室のベッドにサラを降ろすと、「様子を見てくる。頼んだぞ」と船医に言い置いて出て行った。
逃げる間もなく、あれよという間に医務室に残されたサラは、いよいよ青ざめていた。
「あ、あの、船医さん・・・」
「大丈夫だサラ、毒は持ってねぇやつだ。すぐ治療してやるぞ」
衝立の向こうで治療の用意をしているジダンが言うが、サラは焦るばかりだ。
こちらに顔を出したジダンから、サラはベッドを降りて後退りする。
「おい、サラ?どうした?」
「あの、私、大丈夫ですから、帰ります」
「は?馬鹿言ってんじゃねぇ!まだ針も刺さったままだぞ!?」
「これぐらい、大したことありませんから・・・だからお願いです、帰して・・・」
「・・・どうしたってんだ?ちょっと治療するだけだ、何も怖ぇことなんか・・・」
ジダンが困惑して言う間も、サラは青ざめて今にも泣きだしそうな顔で、じりじりと後退する。
「船医さん、お願いです。何も聞かずに、このまま私を帰してください・・・!」
「お、おい・・・!」
お願い・・・!と繰り返すサラに、ジダンも困惑していた。
「とにかく、傷をだな」
なんとかして治療しなければと近づこうとした矢先、バタンと医務室のドアが開かれた。
「ドクター、様子はどうだ?」
「くっそ、昼間釣ったヤツの親かァ?よりによってサラを刺すたァ・・・」
衝立の向こう、戦闘が終わったのだろうベックマンとシャンクスが入ってきた。
治療中だと踏んでいるのだろう、それ以上入ってこようとはせず、返事を待っているのがわかる。
だが何も返事がないのを不審に思ったのだろう、
「・・・おい、どうした?」
訝し気にベックマンが再度問いかけた。
困り果てたジダンがサラを見ると、二人が入ってきたことでますます怯えているのがわかった。
だが医者として怪我人をこれ以上放っておくことはできず、ジダンは溜息を吐くと衝立をずらし、二人にサラの姿が見えるようにした。
「どうした・・・サラ?ーーおい、これはどういうことだ」
見ればまだ針も刺さったままだ。その尋常でない様子に、ベックマンが船医を睨む。
「どうもこうも、さっきから酷く怯えちまってんだ」
「なんだと?」
「治療はいいから帰してくれと、そればっかりで・・・困ってんだよ」
言葉の通り、心底困ったとジダンが顔を歪ませる。
改めてベックマンがサラを見ると、「あ・・・」とビクッと体を跳ねさせ、もう逃げる所などないのにまだ後ずさりしようとしていた。
ーーその怯えようは、シャンクスが船に誘った時を思い出させた。
彼女は何かを恐れている。・・・だが何を?
顔は青ざめ、体は震え、肩には針が刺さりますます血が滲んでいる。その痛々しい様にベックマンが顔を顰めると、サラはそれをどうとったのか、
「お願いです・・・このまま私を、帰してください・・・」
震える声で懇願する。ついにはぽろぽろと涙がこぼれ、お願いです、と繰り返す。
「サラ、痣のことを気にしてるのか?」
それを見られたくないからか?ーーだがそれでこんなにも怯えるだろうか?という疑問が頭に浮かぶ。
普段とはあまりにも違う様子にベックマンも困惑するが、とにかく治療が先決だと気持ちが逸っていた。
一歩踏み出そうとしたベックマンを、
「ベック」
シャンクスの一声が止めた。
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