ごめんなさいだなんて、くだらない言葉を口にすれば彼はただ眉を下げ声を噤む。謝罪の理由はわからない、けれど、わたしの何気ない言葉が彼に不快感を与えたのは、事実だった。
悲しそうな表情の彼を見るのは好きじゃない。けれど、わたしが彼の隣にいれば、何気ない言葉の一つ一つに彼は酷く傷付き、何もせずとも、彼は悲しい表情を浮かべてしまう。
わたしはいつだって、人を不快にさせる人間だ。それは、アカデミアにいた頃から何も変わらない。
邪魔だとか、愚図だとか、心ない人に罵られて、わたしはいろんな事を知った。だから、自分がどれ程虚しい存在なのかは、悲しいほどに理解している。わたしはいるだけで誰かを不幸にする、邪魔者だ。
「だからもう、わたし…遊矢くんの前に、現れない、から…だから……」
「……だから、何だよ」
「だから、だから……ごめんなさい…」
ぽろぽろと涙を流して、わたしはただ、下を向く。遊矢くんがどんな顔をしているかは、分からない。けれど、発せられた短い声は、酷く冷たいものだった。そう、まるで、過去に沢山痛い跡を残し、消えない傷を作った彼のように。
ぼろぼろの泣き顔のまま、わたしはただ、ごめんなさいを繰り返す。何の為に謝っているのか、何に対する謝罪なのか。そんな一番大事な事は、もう、わたしの脳内に存在しない。わたしはただ、意味のない謝罪を壊れたように繰り返す、何もできない人形のようだった。
そんな言葉を繰り返したところで、許される筈が、ないのに。分かっているのに。
「……ゆうやくんに、これ以上、嫌われたくない」
これ以上も何もないのに、わたしは、また意味のない言葉を紡ぎ出す。こんな言葉を紡いだところで、何も変わる筈がないのに。許される事はないのに。
ああ、でも、そもそもわたしは、何に対して許しを請うていたんだっけ。
何もかもが分からなくなりそうで、わたしはぎゅっと、目を瞑る。……何故か思い出しちゃいけないような、そんな気が、した。
「……俺は、お前の事を嫌った事なんて」
その言葉が怖くて、何故か聞きたくなくて、わたしはぎゅっと、耳を塞いだ。
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